接近と邪魔


 身に入らない補習が終わった。受験生なんだからやっぱり身を引き締めて勉強せねば

ならないので、今回の事件を早く終わらせたいところだが……俺の手でどうにかなる

ものなのだろうか?ちょっとだけあのとき、話を聞かずに帰ってればよかったかも、と

弱気になるがそうもいっていられず。山藤の手前もあるしな。とりあえず今のところは……

部室荒らしの犯人も気になるが、今後どうすればいいかあおいちゃんに聞いてみるか。

どうせ白衣の一味には俺が彼女の家に行ったことは知られてるだろうし。

 

 彼女も俺と同じ3年生なので補習を受けている。違うのは俺は理系、彼女は文系と

いうことだが。彼女のクラスの前に行くと、そのクラスの生徒たちが次々に教室を出ていく。

少し待っていると、やがて彼女も姿をあらわした。

「あおいちゃん」

 俺は軽く手を上げ挨拶する。出てきたところでいるとは思わなかったのか少し戸惑った

表情をした彼女だったが、すぐに一礼する。

「あの……石の調査はどうなの?」

 一応周りを気にしつつ小声で尋ねてみる。周りからみると逆に怪しかったりするのだが……

「ええ……まだ確定ではないですが、8割以上は地球上の鉄のようです……」

「そうか……」

 そうか……あれを証拠に、衛星開発の中止をやればいいんだよな。そして次に隕石が

落ちたのを拾えば……拾えれば?

「あのさ、次落ちてくる隕石って、どこに落ちるか予測つくの?まさか運良く近くに

 落ちるのを待つなんて……」

「待ちます……」

「…………」

 まさか肯定されるとは思わず絶句……いくら人工的に落としてるとはいえ、本来は数百キロ

向こうの海上に落とすべきだったもの。今回学校に、いやこの街に落ちたことさえ奇跡に近い

確率だ。向こう(白衣たち)だって馬鹿じゃないんだから、今回のような失敗しないよう

次からはもっつ精密な計算で隕石を落とすだろう。この近辺に落ちることは皆無になる。

俺でも考えつくくらいだから、彼女もわかってると思ったのだが……

「……冗談じゃなく、マジで?」

「……冗談じゃなく、マジです……」

 いや言葉をそのまま返されても。でも彼女も考えがあってそう答えているようで、

「父が言うには、隕石が通り過ぎた後の大気中は、空気の通り道ができるそうです……

 地表近くの道は風で流されてしまいますが、大気圏近くはほとんど無風なので道が残って

 いることが多く……隕石を再び落とせば同じコースを通ることが多くなるのです……」

「……そ、そうなのか」

 にわかに信じがたいが、博士である父親がそう言っていたのだからそうなのだろう。

確かに初めのコースが決まっていれば同じ軌跡を辿ることもあるだろうし。衛星も赤道上空を

回ってる静止衛星と言ってたから、大気圏近くの通り道とやらも常に一定の位置に

あることになる。

「でも白衣たちもしばらく待ってから隕石落とし始めるってことない?その道が消えるまでさ」

「父がまだ研究に携わっていたころは……隕石を見失うことがあっても毎日落としつづけてた

 ようです……今もそうじゃないでしょうか……」

 ふーん……やっぱ昔は計算もうまくいってなかっただろうからでたらめなところに

落ちてたんだろうな、今のこれでも精度は上がったらしいけど。

「じゃあ俺たちは、隕石が落ちたら真っ先に拾いに行けばいいんだな……ビデオカメラ片手に」

 拾った石が空から降ってきたものだと証明できなければ意味がない。俺は昨日実家

(といっても15kmのところなのだが)に電話して、ビデオカメラが必要になったと

宅配してもらうことにした。買ってみたはいいが、家族旅行へ行って撮るということが

少なくなっていたから埃かぶっているだろう。親父の仕事が忙しい時期だから仕方ないが……

ふと、彼女の「父親」についても聞きたくなってみた。

「ところで……あおいちゃんのお父さん――三樹男さんって、家庭ではどんな?」

「……え?」

 場違いの質問で当然のように不思議そうな顔をされる。見た目にはわからないがこんな

緊迫した状況で何を尋ねているのか、と自分でも思うくらいだったが、聞きたくなったものは

仕方がない。

「なんかお父さんっ子って感じがしてさ。尊敬してるような父親してるのかなって」

 俺が言葉を続けると、あまり表情は変わらないが照れたように下を向き、こくんとうなずいた。

「へぇ、仕事で忙しそうだけど――日曜大工とか出来たりする?」

「……はい、まあ……」

「そうなんだ、なんでも出来る父親ってのはいいよなぁ、俺の親父なんか不器用でさ……」

 これまた俺の親父をけなすつもりではないが、話を盛り上げるためには比較せねばならない。

そこまでしてこんな話をする意味があるのかと思うのだが……本当は彼女の父親よりも、

彼女自身に興味があったりして……でも会って間もないのにいきなり馴れ馴れしい質問は

マズイじゃないか(今の質問もそうなのか?)。あおいちゃんの反応は、相変わらず表情の変化が

乏しいのでわかりにくいが、そんなに嫌ってるようには見えない(と願いたい)。また別の質問を

考えようとしたその時。

「あらぁ、お二人だけで作戦会議ぃ?」

あおい & 藍子

 やけに嫌味たらたらの口調で言われ、2人同時に振り返れば……両手を腰に当て、口の端を

引きつらせた山藤が立っていた。もしかして今の聞いてた……?(汗)山藤は怖い笑顔を作ると

俺とあおいちゃんの間に割り込んできて、2人の肩をポンポンと叩く。しかしこころなしか、

俺を叩く手のほうが強いような気が……

「私もこれから何すればいいか、教えてよ」

「は、はい……」

 あおいちゃんも困惑気味で返事。言ってることは正しいのだが、なんか態度が変な感じ。

俺たちが仲良くしてて嫉妬してるのか?今までそんなこと一度も見せたことなかったのに……

俺が、他の女の子と仲良くしてるってのも、あんまりないことだけどな……とにかく、

出来れば仲良く事件の解決を目指したいものだ……


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