発見と疑問


 隕石が落ちたところは、俺たちがいた側と逆の、校舎の端にある林になっていたところだった。

少し迷いそうになったが、明らかに木が変に倒れているのが見えたのでそこだろうと駆け寄って

いけば、この前初めに隕石が落ちたときくらいの大きさのクレーターがそこにあった。

だが既にそこの方に、雨水が溜まり始めている。

「スコップでも持ってくりゃよかったな……とにかく、俺が掘るよ」

 山藤を汚させるわけにはいかなかったので(走ってきたからお互い足元は泥だらけだが)

彼女にカメラを渡して、俺はクレーターの中心へ足を踏み入れた。かなり足が地面にめり込んだが

その分掘りやすそうだと思った。あ、隕石の方がもっと奥に埋まりこんでたりして……

雨水だけを抜くことは出来ないので、泥水の中手探りだけでそれらしいものを探す。

「大丈夫?」

 何に対してかは知らないが、山藤が心配そうに声をかけてくれる。さっきまであんな雰囲気

だったとはいえ、今はそれどころじゃないかもしれない一大事だ。とにかく俺は一心に地面を

掘りつづけたそして……

「……これか!?」

 異質な鉱物を見つけて手にとって見た。この前落ちた隕石のとは形状が違うが、普通の石でも

なさそうなのできっとこれだろう。雨で泥水を落としながら、山藤に見せる。

「多分これだ、撮っといてくれよ」

 山藤は無言でカメラを回していた――が、そのカメラをゆっくりと下ろした向こうに見えた

彼女の顔は、何か怖いものを見たような表情になっていた。俺の後ろにもう白衣たちが

来てるのかと思って振り返ってみたが誰もいない。山藤の視線は俺の持つ隕石に向いている

ようだが……

「ウソ、なんで……こんなところに……」

 山藤はカメラを地面に置くと、俺の方へ駆け寄ってきた。隕石を俺から奪うように取ると、

まじまじと見つめている。暗くてよくわからないが、石は独特な光を放っているように見えた。

「これ……テツがくれた石だよね?!」

「……え?」

藍子

 俺があげたって……石をあげたといえば去年の部活の合宿のときの……そう言われてみれば、

俺が見つけた石に似てるような気がするが、ここじゃ暗くて断定は出来ない。だがあれだけ

欲しいって言ってた山藤が言うんだから、きっとそのものなのだろう。

「部室で探してたの……これなのよ?私こんなとこ来たことないのに、なんで……」

 山藤が探してたのはそれだったのか、そんなものだったら俺に教えてくれてもよかったのに

……あのときは俺に隠しておきたかったんだろうな、石コロなんか大事にしてるのは、

「俺にもらったから」ってことを。……でもこんなところにあるのは謎だ。それよりも、

これが降ってきたというのも考えにくい。これは隕石じゃない……?

 俺はもう一度しゃがみこんで、さらに水溜りを掘り返した。本当に降ってきた隕石は

別にあるはずだ。きっとこの前のような……これか?!

 鉄の塊のようなものが出てきた。こっちが降ってきた隕石だろう。山藤にあげた石は

たまたまあそこに落ちてただけ……というわけでもないよな。部室でおとしたはずだって

言ってたし……部室?

「もしかしてさ、部室に泥棒が入ったのって……その石目的じゃなかったのか?」

「え……これ?」

 山藤がまじまじと自分の石を見つめる。部室荒らしとはいえ、盗まれたものというのは

これといってなかった。何も盗まれなかったか、他の人から見れば大した価値のないものに

見える……その石が盗られたと考えられるのではないだろうか。そしてその石を価値あるものだと

とらえているのは山藤と、石を盗んだ犯人だ。

「……だったら、なんでこんなところに落ちてるの?」

 山藤がつぶやく。せっかく盗んだのにこんなところに捨ててるのは確かにおかしい。

いやほとぼりが冷めるまでここに隠しておいたとか……ほかの人から見ればただの石を?

それに石があった場所に隕石が落ちたなんていうのも偶然なのだろうか。盗まれる前

部室にその石があったなら、初めの隕石もやはりその近くに落ちてるし……

 これは隕石がその石に引き寄せられて落ちる、と考えるのが自然なのだろうか?

でもそんなことあるのだろうか……そんなこと言ったら隕石を落とす衛星というのも

ありえそうにない話だ。でもあおいちゃんや三樹男さんも言ってたんだから……

「あ……」

 また山藤が何かを見つけたような声を上げたので顔を上げてみると、今度は人影が見えた。

白衣たちではないかとヒヤリとしたが、一人で黒い傘をさし、とぼとぼと歩いてくるその姿は

見覚えがあるものだった。

「あおいちゃん……」

 彼女の家からやってきたのなら早いなとは思ったが、三樹男さんと車できたのなら

こんなもんだ。といっても三樹男さんの姿は見えないが……彼女は歩きながら、

俺の持ってる隕石と山藤の持ってる石を見比べて、目の前で立ち止まる。

「……見つけたんですね……」

 雨の音で聞き取りにくい声だがなんとか読み取る。一人やってきた彼女は、初め会ったときと

同じような登場だったが、なんか雰囲気が違っていた。雨のせいかもしれないが。

「ああ、でもなんかややこしいことになってるみたいで……」

「私の石が――単なる石なんだけど、隕石が落ちたところにあったのよ」

 俺と山藤が口々につげる。彼女かその父親なら、納得のいく説明ができるのではと

思ったからだ。だがあおいちゃんは……もう一度、今度は山藤の石だけを見つめながら、

もっとややこしくなるようなことを言った。


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