事故と復讐


「……去年の春です……」

 落ち着いたあおいちゃんは全てを話すと言って、初めの隕石が落ちる前のことを話し出した。

山藤はまだ疑っているような眼差しだが、黙って聞いていた。

 

 ――人工衛星の研究に、父が関わっていたころです……隕石を誤差100m内に落とせるように

できたということで、私もその実験を見に行きました……弟の正輝と一緒に……

その時は父も自信があったようで……これが完成すれば地球のために役立つ、殺戮兵器に

なるものであっても間違った使い方をしなければ大丈夫だ、と意気込んでいました……

 父と私と正輝……は、落下予定地点から1kmのところから見守っていました……

そこなら爆風などの影響も受けないからと言われてたからです……その日は晴れ渡っていて

風もなく、実験するには最高の条件……のはずだったのです……

 合図があって、隕石が落とされたのを知りました……数秒後には地表に到達すると

聞いていたので、空を見ていました……正輝も落ちるのを楽しみにしながら見てたのです……

すぐに光の筋が見えました……しかし一瞬、落ちる方向が違っているような気がしました……

誤差範囲よりもさらにこちら側に、落ちてくるように見えたのです……

 そのことにいち早く気づいた父は「伏せろ!!」と叫んで、近くにいた私を抱えて

倒れこみました……その瞬間、私たちの目の前10mくらいに隕石が落ちたのです……

私は父に庇われていたので怪我もなく、父も大した怪我でもなかったのですが……

一人大きく身体をとばされた正輝は、当たり所が悪くて……

 

 ここまで話して、あおいちゃんはまたうつむき黙り込んでしまった。テーブルに雫が落ちる。

なんだか気まずくなったな、嫌なことを思い出させてしまったみたいで……

「それで弟さん……死んじゃったの?」

 山藤が無遠慮に聞いた。あおいちゃん自ら「死んだ」と言わせるよりはまだマシとも

取れるだろうが……だが彼女は、うつむきながらも首を横に降った。

 

 ――いえ、一命は取り留めましたが……1年以上たった今でも、正輝は意識を取り戻して

いません……父は初めて、この人工衛星の脅威に気づき、計画を中止することを訴えかけました

……しかし研究所側は、「予想できた範囲内だ、身内が怪我をしたから冷静でいられないだろう」

と聞く耳を持ちません……やがて父は研究所を追いやられました、みんなから無視されるように

なったから……

あおい , 三樹男 & 正輝

 でも父はそう言われた通り、正輝のことで頭がいっぱいだったようです……マスコミに訴えて、

世間に公表しようかとも思いましたが、そんなことで正輝が目覚めるわけでもありません……

いつのまにか父は、研究所を恨むようになっていました……いつか仕返しをするために……

研究所に隕石を落としてやろうと考えるようになりました……

 地球から遠隔操作するための装置は、暗号を知っていたので、向こうに暗号を変えられる前に

こちらで暗号を無視して操作できるリモコンを作りました……そしてより落下地点の誤差を

無くすために、「空気の通り道」というものを発見し、それを人工的に作れるかどうか

試していました……それを研究所のどこかに置いておけば、1発で命中できるから……

 気づかれにくいように、空気の通り道を作るものは石の形に似せるようにしました……

そしていろいろなパターンの石を作り、どれが一番隕石を近くに落とせるか実験もしました

……それが去年の夏、あなたたちが部活の合宿で来ていた川原です……

 

「それじゃあ……そのいろいろな石の中の一つを、知らずに俺が拾っちゃったワケ?」

 まさかそんなところから事件に関わってたとは思わなかったので、驚きを通り越して

呆れ返った。あの時その石を拾わなければこんなややこしいことには……でも拾わなければ

三樹男さんの「復讐」はすでに行われていたことで……どういうことであれ、三樹男さんの

行動は許されることではない。それを思えば、あれでよかったのかとも思ってしまう。

「でもこの石にこだわらなくても……この石が一番性能が良かったとしても、作り方くらいは

 メモとかしてるはずでしょ?」

 山藤の疑問ももっとも。二つの石が存在したとしても、近くになければ互いの効果も

作用し合わないだろうし。

「確かにその石が一番近い場所に落とすことが出来ました……でももう一つ作ろうとしても、

 なぜかそれほどの効果は得られなかったのです……」

 成分の微妙な違いとか、空気中のチリとかも作用したのかも知れないよな。この石は、

偶然の産物なのかも……

「父は諦めませんでしたが、1年近くかかっても納得のいく石は二度と作れなかったのです

 ……その間正輝は目覚めることもなく……父の復讐心は消えませんでした……

 ところが今年の夏になって……私はあなたが石を持っているのを見つけたのです……」

 どきりと山藤が反応して、手に持っていた石を落としそうになって慌てて持ち直す。

登校時に石を手に持っているのを見つけたのだろう。宝物だからっていつも持ち歩いてなんか

いたりするから……って俺がそれを宝物にさせたようなものだよな、少し反省……

ともかく、隕石が落ちる前のことは大体事情がつかめてきた。


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