連行と阻止


 補習中、あの隕石のことでいろいろ考えてしまう。外を見ればあの白衣を着た人間が

何人か見えるし。おかげで突然先生に当てられて答えることができなかったぞ

(それは自分のせいとか言うな)、後で考えれば答えられる問題だったのに……

ま、今更授業態度どうのこうの言っても意味ないから、入試でいい点取れればいいんだけどな。

それに今は試験どころではない大きな問題を抱えているし……

 

 山藤には補習が終わってからあおいって娘に会いに行くと言ってたから、昼飯はゆっくりと

食べようと思った。といっても学食へ行けばいつも山藤に会うんだけどな。料理できるらしいけど

面倒だから弁当作ってこないとか言ってたけどどうだか……とにかくいつも通り学食へ向かおうと

していた。視界の端にあの白衣が見えたが、別の生徒と話しているようなので視線を動かさず

前を向いて歩いていたのだが。

「君は、照下博士の娘さんだろう?」

 照下、の名前を聞いて思わず振り返る。白衣と話をしていたのは……やはりあおいって娘だ。

購買で買ったらしいパンを持ってて、初め会ったときのようなぼーっとした表情は同じ。

でも博士の娘って……?

あおい

「君が隕石を持ち去ったんじゃないのか?」

「いえ……」

 一瞬彼女と視線は合ったが、すぐに戻して白衣の問いに答える。しかしなんかこの白衣、

俺が朝会った人より感じ悪いような……

「じゃあ誰が持ち去ったというんだ?興味本位だけで持っていく人なんていないだろ」

 思わず山藤がいるぞ、と言おうかと吹き出しそうになったが、まだ声をかけずにやり取りを

見てみる。俺は白衣の背にいるから気づかないのか、それとも普通に生徒が歩いてるのに

まぎれて気にしていないのか。一方の彼女は、これといった言葉を言えずにうつむいている。

やっぱりこういう喋れない性格なのか?嘘をついてるわけじゃないんだけど……

「黙っててもわからないな、別のところで話を聞こうか」

 そういって白衣は、彼女を半ば強引に連れて行こうとする。ここらで割り込んだ方がいいかな

……俺はさらに白衣の肩をつかんだ。

「ちょっと、照下さんをどうするんだよ」

「なっ……なんだ君は?」

 振り返った白衣の男は、思った通り性格の悪そうな顔をしていたが、体格の方は俺のほうが

がっしりしている。俺は運動する方じゃないんだけど、やっぱりこういう奴らは研究所に

こもってることが多いからガリってるんだろうな。

「彼女の、友達ですけど」

 昨日会ったばっかでそれはないが、嘘も方便だ。それにこの後、彼女とそういう関係に

なりそうな気もした。友達というよりはこの「事件」にかかわってる重要人物って感じだが。

白衣は、大きな騒ぎを起こしたくないのか、いまいましく俺のほうを睨みながらも、無言で

向こうへ去っていった。それをしばらく見つめながら、彼女の方へ向き直る。

「大丈夫だったか?」

「はい、ありがとうございます……あの……」

 彼女が俺に何か聞こうとして――そうか、俺の名前を言ってなかったんだな。これからは

よく会うことになるかもしれないし。

「俺はタイト テツ。所属はバンドクラブ……はもう辞めたんだけどな」

 あまり意味はないが、この学校はクラブ推進校なのでクラスよりも所属クラブを

言うことが多い。なので「帰宅部」と答えるのも寂しいので何か入っておこう、

と思い始めたバンドクラブだが、なかなか面白くてのめりこんだ時期もあったな。

しかし彼女はまだ天文部の部長をやってるということだろうか?まあ地学専攻してたら

役に立つかも知れんが。

「にしても、あの隕石のことなんだけど……」

 周りに白衣の人間がいないか見回してから、小声で照下さんに尋ねてみる。が、いきなり

手で口を抑えられてしまったので、やわらかい手の感触が伝わりドキッとさせられる……

彼女はそんなことひとつも思ってないみたいだが。

「その話は……私の家ですることにしませんか……」

 そう言ってから手を放してくれたので口を開けるようになる。やっぱこんなところで

話せるようなことじゃないのか。いよいよもって面倒なことに巻き込まれたな……

今更知らん振りすることもできないし。

「君の家は……」

「帰りまでに、下駄箱に地図を入れておきます……私といると怪しまれるから……

 家に入るときも、誰にも見られないでください……」

 いやに注文が多いが……やはり彼女は、もしくは博士と呼ばれる彼女の親が、あの隕石に

ついて何か知っているのだろう。そして白衣たちは……

「そうだ、山藤……俺と一緒にいた、あれ持ってった娘も連れてきていいかな、というか

あれも持ってきたほうがいいのか?」

 あれというのは隕石のことだが、あまり口にしない方がいいと思って代名詞にしておいた。

照下さんはちょっと考えるようなそぶりを見せたが、

「一応、持ってきてください……でも」

「誰にも見せないように、だろ?」

 俺が先に続きを言ったのできょとんとした表情をした彼女だったが、こくりと頷く。


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