兵器と公表


「隕石じゃ、なかったんだ……」

 残念そうにつぶやきながら山藤は、テーブルの上の石を見つめる。宇宙から降ってくる

石や鉄のようなものを隕石と呼ぶとしても、人の意思で落とされたものなら拾ったありがたみも

半減するわな……山藤には惜しいことだ。

「まあとりあえずそれは隕石と呼ぶことにしましょう、本来その隕石は日本近海の太平洋上に

 作られた、衝撃を変換するシステムの上に落とすべきでした」

 三樹男さんが話しつづける。確かにただ落としても地面に穴が開くわけで、エネルギー変換

なんてされないよな。でも実際は学校に落ちたんだけど……?

「しかしまだ落下地点の計測に誤差があり、また昨日は風向きと強さが急に変わり、本来落ちる

 べきところから何百キロメートルもずれ、君たちの通う学校に落ちてしまったのです」

 まだそんなもんだろうな、そりゃ地上何万メートルから落とすんだからずれるのは仕方

ないけど、何百キロってずれはないだろ……今考えてみれば、ほんの数百メートルずれてたら、

俺や山藤に直撃してたんだよな……背中に寒気が走った。

「そんな未完成なのはた迷惑な――あ、だからそれを隠すために石を探して?」

 自分で言いながら、謎の部分の一つの答えが出て口に出してみる。俺の言葉を聞いた

三樹男さんはゆっくりとうなづいて肯定を示す。

「隕石を調べられれば地球のものだということがわかる。世間に知れ渡れば開発を続けることも

 できなくなるだろう。しかしこんな危険なものは完成しないほうがいい」

 多分三樹男さんも開発を手がけただろうに……だからこそ、そのシステムの欠点もわかる

ということか。そして開発を続けようとする他のメンバーに反対して、一人抜け出した……

ってところだろうな。学校であおいちゃんが、三樹男さんの娘だから石が近くに落ちたら

取ってくるように言われていたのでは、と白衣の一人が彼女に詰め寄ってたことだし。

実際にそういってたのだろうが、まさか俺と山藤が先に見つけて取ったとは思わなかったろう。

「これは私の思い過ごしかもしれないが……このシステムが完成する、つまり隕石を確実に

 目標着地点に落とせるようになると……おそろしい兵器にも変わってしまうのではないか、と」

 兵器……それはマンガであるような、人工衛星からビームを発射するような感じで

都市を破壊するとか……大きい隕石になると落ちたときの衝撃が核爆弾何個分、という表現を

聞くけど、つまり宇宙に浮いてる鉄の塊が全部核爆弾になると……?しかも完成までそう

遠くないかも知れないって……?!

藍子

「ど、どうするんですか、これ……」

 自分でも驚くほど動揺してる。よく考えてみれば日本で作ってるんだったら日本に落とそうと

することはないだろうけど、間違って落ちる可能性も高い。それが正しく資源のために使われて

いたとしてもだ。俺自身が死ぬのも嫌だが、家族や友達が死ぬのも同じくらい恐ろしいことだ。

そしてそれを止めるすべがこの1個の鉄の塊にあるとしたら……

「これ、を、持っていけばいいんですね……?」

 声と手の震えを抑えつつ、机の石を指差す。言ってから、どこに持っていくんだ?

と自問したが、三樹男さんには伝わっているようだ。

「公表するつもりだ。だが……それだけを持っていったのでは、本当に昨日落ちた隕石か

 証明できないだろう。今度は落ちてから石を調べるまでの一部始終を知らしめさなければ」

 確かに……この石だけでは疑惑だけは作れるが、でっち上げてるようにも思われるかねない。

次に落とされた隕石は、ずっとビデオに収めるとかして証拠を残しとかないとな。

それも俺たちだけで作っても駄目だ、どうせならもっと大騒ぎになってでも完璧に証明しないと

……デマで終われば次からは信じてもらえなくなる。

「私なら少しは名が知られているから、マスコミも耳を傾けてくれるだろう。その前に準備を

 しなければならない。その隕石についても完璧なデータを取っておきたいんでね」

 と、三樹男さんはテーブルの石を取り上げる。思わず山藤が三樹男さんの方を見て何か

言おうとしたが。

「これは私が預かってもいいかい?」

 三樹男さんの優しく語りかける言葉に、納得したのか何も言わずこくりとうなずいた。

 

 気づけばあたりはかなり暗くなっているが、それほど遅い時間でもないし、向こうのご厚意で

夕食をご馳走してもらうことになった。元々父母姉弟の4人暮らしなのだが、三樹男さんは

仕事場のここでいることが多いようだ。あおいちゃんは高校生になってから、家よりも

ここからの方が学校に近いので、こっちで寝泊りしてるという。料理は交代で作っている

(今日は客が来てるということなので2人で作ってもらったが)ということを聞くと、

「仲のいい父娘よねぇ」

 山藤も感心する口ぶりでそう漏らす。山藤は父親とはどうなんだろうな、まあ普通は

この年の娘っていうのは父親とあんまり口をきかないことが多いんじゃないのだろうか。

もう少し大人になればそんなことなくなるんだろうけど。

「できました……」

 あおいちゃんと三樹男さんが料理を持って来たので美味しそうな匂いが漂ってくる。


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