移動中


 自分の荷物を背負い、体育館を出る2人。先生たちが中に入っているように言ってくるかと

思ったが、誘導に疲れたのか出てこない。先生たち自身も被害者なんだからそこまで頑張る

必要もないと思うけどな。かといって俺たちがやらねばならない、というのも腑に落ちんが。

「なああおいちゃん、あの石ってまだあるのかな」

 ふとあおいちゃんの背負っているリュックが気になった。彼女も受験生なんだから

着替えを持ってると考えるのが普通だが、事態が起こってからそれに対処してるものも

準備しているような気がしたからだ。

「ええ……でも欠陥品というか……あまり性能のよくないものでしたらいっぱいありますが……」

 そういって、リュックを開いて大小さまざまな石を見せる。慌てていたのか試作品を全部

持ってきたのだろう。今だけの量は重そうだが、密度はそんなにないらしく軽いとのこと。

「せめてこの体育館は無事なように、周りにその石を並べておくとかさ。それで効果あるなら

同級生らだけでも、ってさ」

 俺の提案に少し考えていたあおいちゃんだったが、

「……わかりました」

「ありがとう――本当はここから動かない方が安全って言いたいんだけどな」

 理由を言ったら石のことや衛星のことまで話さなくてはならない。そうすればみんな、

衛星を操ってる奴よりも衛星を作った三樹男さんや、その娘のあおいちゃんまで責めるだろう。

だから……まだ言えない。

「……すみません」

 俺の言葉の先を汲み取ったのか、あおいちゃんが申し訳なさそうに謝る。

「いや、あおいちゃんは悪くないよ。……とにかく三樹男さんだ。犯人についてや、

衛星の止め方なんかも知ってるかもしれないし」

 体育館の4隅に、例の石を1つずつ置いていく。ふと、空を見上げて……隕石が落ちてこない?

段々落ちる間隔が広くなってるなと思ってたが、そのまま止まってしまったのか。

これで今後も全く落ちないのならありがたいのだが。

「多分エネルギー切れでしょう、あれだけ連続で落としたのだから……昼間は太陽電池で

充電するので、この後も落とされる可能性はあります……」

 そう簡単にはいい方向に転がらないってことか……石を置き終えて、改めて出発する。

まずは三樹男さんが向かったと思われる避難場所に向かった方がいいかな。来た時と同じ道を

辿ればばったり出会うかもしれないし。

「それにしても何かあったのかな、怪我人たくさん見つけてその人たちを移動させるのを

手伝ってるとか」

「それだけなら、父一人いなくても他の人がしてくれると思いますが……」

「まあ自分も急いでる身だろうし――あ、正輝たちを見かけたって人がいて、

そっちに向かったとか?」

「だといいのですが……でも見かけたという人は知り合いということだから、どうして一緒に

行動してないのですか……?」

「――そういえば。じゃあ……そうだ、正輝たちが怪我してて、看病してやらないといけないと

思ってとか?それなら納得が――」

「…………」

「……ゴメン忘れて」

 理由を考えるのに少しばかり熱が入りすぎて、彼女にいらぬ心配をかけることに。

反省……しばらくは2人とも話もせず、ただ黙々と歩くことになってしまった。

 

 ガヤガヤ……

「?」

 騒いでいる人の声がしたので、2人で顔を見合わせる。こんなところに避難するような

場所もないし……気になって様子をうかがってみると。

あおい

 そこはコンビニだった。入り口にシャッターが下りていたのが……壊されて地面に

転がっている。そして中には、10人以上もの人たちが我先にと食料などをかき集めている。

もちろん、金など払う気などないのだろう。隕石が止んだ間に、店の人たちが戻ってこない間

……いや、もしかしたらバイトに来てた人も混ざってるかもしれない。若者だけでなく、

おばさんくらいの年齢の人も必死で食料を奪い合っている。

「……なんか、醜いな……」

 思わずそう漏らしてしまったが、俺も「一般人」だったら考えていたかもしれない。

それに自分だけのためでなく、家族が腹をすかせないように、悪いこととは思いながらも

仕方なくやってるのかもしれない。

「……いそぎましょう」

 あおいちゃんもこんな光景見たくないのか、俺の袖を引っ張って先を促す。俺もうなづいて、

その場所を後にした。こんな人たちをこれ以上増やさないようにな……


Next Home