ミッション


「ふう……この辺でいいだろう」

 しばらく徐行していた車だが、運転する三樹男さんのブレーキで完全停止した。

ため息をついたのは俺もだったが……さすがにジェットコースター並なさっきの運転は

もうこりごりだが。時計を見て……4時50分になろうかというところ。

 車をつけたのは駅前のロータリーになっている場所。ここは隕石が「なぜか落ちていない」と

いうこともあって、避難してきた人がかなり多く見られる。朝見た、略奪などは見られない

ようだが――もう既に行われた後か、それともその辺のビルで今もなお続いているのか……

 俺たちは一つのビルを見上げていた。駅前のビルの中でも12階建てと一番高く、

食料品からファッション、本屋など、まあ総合デパートメントといったところだ。

正式名称は……なんとか米戸(よねのへ)だったな、そういう名前の会社があるらしい。

でもあまりかっこいい名前じゃないから、若者たちには別の呼び名で親しまれいる。

 「コメット」……あまりに不吉すぎて逆に笑えてしまう。いくら隕石が降ってきてない

からってそんなところに避難するだろうか。それに、現にここに隕石を落とそうとしている

男がいる。名前の通りにさせないためにも、俺たちが彼を止めねばならない。

そうすればあいつにもすぐ会えるだろうし……

米戸ビル(笑)

「あおい、あの石は持っているか」

 三樹男さんが娘に、例の「隕石を斥ける石」の確認をさせた。それを持ってビルに入れば、

ここを狙ったとしてもそらせることはできるだろうが……周りに落ちるのには変わりはない。

「うん……どうするの?」

「彼は多くの人間を死なせたが……自ら命を絶たせて終わらせるわけにはいかない。

生きて自分のしてしまったことに責任を感じてもらわなければ」

 三樹男さんの言うとおり彼を死なせても殺してもいけない、生きて改心させなければ。

そのために彼がいるであろう――彼女と待ち合わせをしたであろう――このビルは

守らねばならない。もちろん隕石を落とされる前に確保できれば十分なのだが。

「それで……どこに居るんでしょう?」

 どこというのはフロアだったり、部屋だったりということ。1つのビルを探すとなると

3人で手分けしても1時間弱というのは少なすぎるし、下手に探し回ったら向こうに

感づかれてしまうし……三樹男さんはいつのまにかこのビルの簡単な見取り図を描いていて、

「他の避難している人と同じ場所にいるとは考えにくい。ということは普段客が出入り

できないようなところ……事務フロアか制御フロアのどちらかだ」

 このビルは12階といえど、エレベーターに乗ると4階と9階が抜けている

(地下は駐車場を含め2階まであるからやっぱり12階なのだが……14階か)。

実は4階はこのビルの事務が集中しているフロアであり、9階は各階の電気配線や

空調を管理する制御室、また全ての監視カメラを見ることができる監視フロアにも

なっている――らしい。つまりそこは一般客は入ってこられない、人の出入りが

少ない場所なのだ。監視という点では9階が怪しいな……

「監視されているとしたら私たちが入ってきたことが向こうに知られるのはすぐだろう。

それで向こうがどう出るかわからないが……とにかく入ったら速やかな行動を心がける。いいね」

「……うん」

「はい」

 

 1階。人でごった返していて通り抜けるのが困難だ。3人バラバラにならないように

確認しながら抜けねばならなかった。ふとあいつが居るかどうか見渡したが、よくわからない。

もし居るならここに俺たちが入ってきた時点で気づいていただろうから、何の合図も

送られていないというのはやはり居ないということだろう。それでも後ろ髪を引かれながら

1階をあとにする。ここで5時をまわっていた。

 2階へは止まっているエスカレーターを利用した。エレベーターは止まっているし、

階段だと向こうに発見されやすいと思ったので。だが4階や9階を確認するには階段を

使わないといけない、エスカレーターは3階から5階まで一気に繋がってしまっているから。

 3階くらいになると人の数は激減する。避難するのにわざわざ上の階へ行くという

ことはないだろう、ここにいる人は混雑が嫌いなだけか。監視カメラに注意しながら

階段へ向かう。

 4階にあたる階段の踊り場には、「関係者以外立ち入り禁止」の扉が――開いていた。

しかもかなりの人数の声が聞こえる。事務室に何のために?と3人で覗いてみると……


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