一時の別れ


「どうも、ありがとうございました」

 俺の背から降りて、娘を救ってくれた三樹男さんに礼を言う四季さん。佑馬も起き上がれる

ようになって、今だ三樹男さんに抱えられて眠っている七希菜ちゃんを心配そうに見ている。

とりあえず顎についている血を拭いてあげないといけないのだが(汗)、俺には三樹男さんと

話すべきことがある。

三樹男 & 七希菜

「三樹男さん、その……」

「ここではまだ話さないほうがよさそうだ」

 語りかけた俺だが、三樹男さんに小声で止められる。ここで話せば佑馬たちも巻き込むことに

なるからということだろうか。三樹男さんは七希菜ちゃんを佑馬に預けて、懐から何かを

取り出した。それを見て俺は例の『隕石を呼び込む石』と思って後ずさりしかけるが、

彼がこんな時にそんなものを持ってるはずがない。よく見れば形状が違っていた。

「これを持って学校へ戻りなさい。詳しい話は娘に聞いてくれ」

 その言葉から、あおいちゃんは学校に無事に着いているとわかり、胸をなでおろす。

だがその言葉にはもう一つの意味があることを感じ取った。その石を受け取りながら尋ねる。

「三樹男さんは……一緒に来てくれないのですか?」

 三樹男さんは苦笑して後ろを振り返る。視線の先にはまだ荒井田が伸びているのが見えた。

「一緒に帰るつもりだったが……彼をこのままにしておくわけにはいかないだろう。

かといって君たちと一緒のところへはやりづらい。別の、近くの避難所に連れて行って

手当てをしてやらないと」

「そ、そんな奴放っておいてもいいじゃないですか……!」

 飲み水をハンカチに染み込ませて七希菜ちゃんの顔を丁寧に拭いていた佑馬が怒ったように

言う。確かに目を覚ましたらまた悪さをしそうな奴だし、俺もその意見には賛成だが……

三樹男さんは佑馬に言い聞かせるように諭す。

「気持ちはわかるが、見殺しにするということは、私たちが殺したのと同じことになる。

それじゃ彼とやってることが同じだが、それでもいいのかい?」

「…………」

 反論できず俯く佑馬。替わりに七希菜ちゃんの看護をしていた四季さんが佑馬の背中を

優しく叩く。娘のために怒ってくれてくれるのは嬉しいけど、私も彼に同意見、

ということだろう。

「それに彼も被害者だ。この隕石群のな……」

 三樹男さんは遠い目をして空を眺める。すっかり忘れていたが、隕石はまだ降ってきている。

ふと何かを思い出したように三樹男さんが俺の方を振り返る。

「そういえば君の彼女は……一緒じゃないのか?」

「あ、いえ……」

 彼女って……まあそうなんだけど。その言い方だと彼とも合ってないし、学校にも来ていない

ようだな。あと心配になったのはあいつだけになったな……

 

「……あ、私……」

 三樹男さんが荒井田を連れて行ってからしばらくして、七希菜ちゃんが目を覚ました。

もう顔はきれいになったのでどこにも血はついていない。荒井田が倒れた時に道路に付いた血は

七希菜ちゃんから死角になるように俺が塞いでいる。

「よかった……気分は?立てる?」

「……はぁ」

 いまいち状況がわかっていないらしい。大量の血を見て気絶した時、そのショックで前後の

記憶が飛ぶごとがあると四季さんは言っていた。都合はよいのだが、そこまでとは……

彼女はふらつきながらもなんとか歩けそうだ。佑馬が支えながらなら学校まで辿り着けるだろう。

俺はまた四季さんを背負って歩き出す。ちらりと後ろを見れば、でれでれしながら佑馬が

七希菜ちゃんの腰を支えている。それじゃ荒井田と同じだぞ……

「あの人は、どういう方なんですか?」

 四季さんが俺に尋ねる。あの方というのは三樹男さんのことだろうが、俺が知っている全ての

ことを言うわけにはいかない。かといってウソをつくのもな……どこまで喋ればいいのやら。

「えーと……照下三樹男さんといって、天文学者なんですよ。娘さんが俺と同級生で……」

「天文学……」

 四季さんは何か考えるようにつぶやいた。

「隕石群が地球に近づいているなら事前に知ることもできたでしょうに、どうして今まで

一般に情報が来なかったのでしょうか」

 う……考えれば確かにそう思うのが妥当だ。さすが七希菜ちゃんの母親だけあって

鋭い指摘。俺は知らない振りして言葉を濁すしかなかった……


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