訪問


「あ、丁度いいところに」

 放課後になって教室から出てきたところで、ばったりと宗谷にでくわす。今日はバンドクラブの

無い日だからゲーセン、と思っていたのだが――何かあるのか?

「ねぇ、シャノンの家行ってみない?」

「針井の?……なんでまた」

「シャノンのお母さんがね、クラブのメンバーと是非会いたいんだって」

 針井の母親といえば、アイルランド人らしいな。まあ日本に10年以上は住んでいるだろうから

日本語は喋れるだろうが……それにしても針井、母親には何でも話すとみた(笑)

「俺は行ってもいいけど、部長……は無理か」

「一応聞いてみたんだけど、ホント勉強に必死らしいね。東大でも目指すのかしら」

「で、肝心の針井は?」

「もう1つのクラブに出なきゃいけないって、地図だけ渡してどっか行っちゃった」

 あいつもう1つクラブ入ってたのか、そのことは全然聞いてなかったが……それこそウワサの

オカルトクラブじゃないだろうな……バンドとオカルト、似ても似つかないが……

「紙切れ持って教室入ってきたシャノン見て、初めラブレターかと思って卒倒しかかっちゃったけど」

「おいおい……それにしても地図って宗谷、針井の家知らないのか」

「そりゃ今まで誘われたことないし……まさかあたいがシャノンが帰るのをつけて家の場所を

 確認してたなんて思ってないでしょうね」

「あのな……(まあやりかねんが)」

 

 針井の家に向かう途中。地図は針井が描いたものかかなりおおざっぱだが、目印となるものは

的確に書かれていたので迷うことはないだろう。登校時に針井が徒歩で来ているのを見たことが

あるから、学校からそんなに遠くないこともわかる。当然だが、2人とも制服のままお邪魔

することになるのだが。

「それにしても俺のこと無視して、来れなかったとか何とか言って、一人で行くってことは

 考えなかったのか?」

「だってそれじゃ……恥ずかしすぎるじゃな〜い〜」

 急に女の子ぶるなよ……女なんだけど。それにしてもこの辺にはあまり来ないよな……元々俺が

行動範囲が狭いだけかもしれないが。周りの家は高級住宅っぽい雰囲気をかもし出しているのは

あたりが静かだからだろうか。

「ここ……かしら」

 呆然とした感じの声で宗谷がそう言ったので立ち止まれば、周りの家々の中でも最も大きな

部類に入る家だった。まあ敷地面積は普通だが3階建てである。まさか針井がこんな家に住んで

いたとは思いもよらなかったのか、上のほうを見上げて口をポカンと開けている。

「こんな……おっきなところに」

「確かに大きいな」

「……その割にはそんなに驚いた風には見えないけど」

 実の所、俺の家もこのくらいはあるもんで……まあ俺は今のマンションの1部屋だけでも十分

なんだがな。親父はマンガを描くのに行き詰まったとき気分を変えるため部屋がいっぱいの家を

建てたとか言ってたけど、実際は同じ部屋で動かなかったり。

「表札にも『針井』って書いてあるし、ここだろ。入らないのか?」

「え?あ、うん……もう少し様子を見ましょ」

「なんのだよ……」

 やっぱりこれも、家が広い環境で暮らしてた外国の奥さんのために、旦那さんが奮発したん

だろう。まあ旦那さんも外国で働く仕事をしてたんだろうから、裕福でも不思議はないし。

それに比べ宗谷は――この行動からして庶民的だなぁ……入り口の柵からのぞき見てるなんて

怪しすぎ、これこそストーカーみたいじゃねぇか。通行人に誤解されるぞ……

「家に何か用ですか?」

「!!」

巫琴 & 惟音

 急に後ろから声を掛けられて一番驚いたのは宗谷。振り向けば長髪で背の高い男性であった。

その髪の毛は針井と同じように緑がかってっているのを見ると兄弟だろうか。針井よりちょっと

日本人離れした顔にも見えたのは、鼻が高いせいだろうか。

「もしかして、社音の友達かい?」

「あ、ええ、そうですけど」

 まだ心臓のあたりを押さえている宗谷の代わりに俺が答える。

「Mumから話は聞いてるよ、わざわざ来てくれてありがとう」

 マム……さすがハーフらしいや、まあ「ママ」よりはマシに聞こえる(外国じゃマシもなにも

ないのだろうが)。

「えーと、針井……君の、お兄さんで?」

「ええ、針井惟音(はりい いおん)です、よろしく」

「あ、宗谷巫琴と申します、よろしくお願いします……」

 緊張かなにかで、まだ混乱している宗谷が頭をさげる。そういう意味じゃないと思うのだが……

とにかく惟音さんの登場でなんとか針井宅へ入ることが出来た。


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