流星の下


「……じゃあ、部長さんに言っといてくれるかな」

「もちろん、一役買うわ(^-^)」

 金曜日の学校での休み時間、ある人を呼び出し、手伝ってもらうこととなった。これをするなら

今日しかないと思ったからな……

 

 日曜の夜、俺は学校へ行っていた。今日は先生もいるということで、10時過ぎてもいられる

とのこと。空も晴れてるし、まさに絶好のシチュエーションだ。俺は屋上への扉を開けた。

 そこには10人くらいの生徒がいた。その中にはもちろんあの娘の姿も……空を見ていて俺には

気付いていないようだが。一番に気付いたのは、金曜日に話していた人――河合さんと、部長・

反町さんだ。

「タイト君、君もやはり興味があるんだね」

「え、ええ、もちろん……」

 なぜかどもってしまう。なぜかというと……

「わかってるよ、本当の目的は彼女なんだろう」

「私が部長に全部話しましたからね♪」

 河合さんはやけに嬉しそうだ……そんなに2人の仲がよくなるのが嬉しいものなのかな。

まあ仲が悪くなるのを喜ぶよりは絶対マシだが……

「そろそろ、たくさん見える頃だ。まあさっきも少しは見えたんだけどね」

 もう見え出しているのか。まあある時間を境に見えなかったのがいきなり、ってのも不自然か。

俺はまだ空を見上げたままの彼女……あおいちゃんのところへ行った。

「あおいちゃん……久しぶり」

 ビクっととした彼女は、恐る恐るこちらに振り返ると、視線を反らすようにまた空を見上げる。

まだ勘違いしてんのかな……いや、勘違いしているのは俺のほうか?

『あなたが他の女の子と仲良くしてるのに嫉妬してるんですよ〜』

 そういえば河合さんはそういうことを言っていたが、そういう話が好きな娘だから本当か

どうかは定かではないのだが……このままギクシャクしているのはやはり嫌だ。

「俺も見にきたんだ、ここからだと見やすいから」

 屋上からだと、周りに高いビルなどが見えないので真上を見やすい。実際は東の空に見えるって

部長さんは言ってるけど。あおいちゃんはまだ無言だ。ここまで来たはいいが、どうすれば

あおいちゃんは機嫌を直してくれるかな……やっぱり謝るしかないのか?

「……あっ」

 突然あおいちゃんが声を上げたので何事かと思ったが、どうやらあれが見えたからのようだ。

とりあえずこの空なら時間がたてば、あおいちゃんの怒りも収まってくるだろう。怒ってるって

顔でもないけど……

「あおいちゃんって見つけるのが得意なんですよ」

 河合さんと部長さんも東の方をながめている。東といっても90度もあるから、必ずしも視界の

真正面に現れるとも限らず、あるいは瞬きの間に消えたりすることもある。

「あおいちゃん、得意なんだ」

「……」

「願い事言い放題だよな」

「……」

「何か願い事あるの?」

「……」

 あおいちゃんは相変わらず無言……ま、負けねー……

「俺もたくさん見つけたいな〜」

「……」

「そんで願い事するんだ」

「……」

「例えば……」

 そこまで言って、言いよどんでしまった。というか願い事なんて男子高校生が言うのには

既に恥ずかしいものがあるのだが、次言おうとしているのはもっと恥ずかしいことだった。

しかし他に思いつかないし、もう言っちゃえという雰囲気でもあったし。

「……あおいちゃんに、俺のこと好きになって欲しいとか」

「……っ」

 俺の必死の言葉にようやく振り向いてくれたあおいちゃん。必死というかなんというか……

少なくともでまかせの嘘ではないが、自分でもなぜそんなこと言っのかたよくわからない。

仲直りだけじゃダメだ、というのがあったのかもしれない。

「タイトさん……」

 ようやく喋ってくれたあおいちゃんの目は真っ赤になっていた。乾燥した秋空でずっと目を

開いたままでいたか、あるいは……

「……さ、願い事のために俺も探すぞ!!」

 照れ隠しで叫んでおきながら、あおいちゃんの隣に立って空を見上げる。これであおいちゃんも

わかってくれたかな……

「……あっ」

 またもあおいちゃんが見つけたらしいので、思わずそちらを振り返るが当然ながら間に合わず、

既に消えていた。本当に得意みたいだな、俺もあおいちゃんの向いているほうを見ておくか……

 

「……見つからん……」

「……あの……大丈夫ですか?」

 彼女は10個以上も見つけておきながらまだ俺は0……実際彼女の視線がどこ向いているか

わかってないのかもしれない。無理してまばたきしなかったので、俺も目が痛くなってきた。

「……」

「わ、あおいちゃん!?」

あおい

 寄ってきたかと思えば、俺の頭をよせて自分の頭とひっつける……たしかにこれなら同じ視線が

体験できるが……あおいちゃんのほっぺが……

「……あっちです……」

 彼女の声が振動として直に伝わってくる。俺も彼女の向く方向に(自動的に)向いた。しばらくして

「……見えた!」

 今度こそ俺にも見えた。さすがあおいちゃんといったところだ。笑いながらあおいちゃんの方を

向くと、彼女もあまりみせない笑顔を返してくれた。


Next Home