昼休み、いつものように食堂で昼飯食ってたら隣に座ってきた山藤は、だがあまり見せない
怒り顔だった。やけ食いのように食事をつめこめると、
「はのはりゃいらっへひほ、わひゃしのおひりひゃわっへひたのひょ〜?」
「……全くわかりませんが」
ごくん。
「あの荒井田って人、私のお尻さわってきたのよ〜?『寒いだろうから暖めてあげる』って
いいながら」
あいつが?いよいよ強行手段に出たか(違) ファンの風上にも置けんやつだな、俺はファンとか
そんなんじゃないけど。多分そんな露骨に触ったんじゃなくて、腰のあたりを軽く触れたくらい
なのを、荒井田をウザく思ってた彼女が「触りに来た」と思い込んだのだろう。
「私も思い切りビンタしてやったから、もう懲りるでしょうけど」
そういえば朝の登校時、銃声のような「パーン」って音聞こえたけど、もしかしてあれか……?
だったらすごい腫れてるだろうな……
「ふーん……」
「……あんまり興味ないみたいねぇ」
俺は俺で飯食いながら一応聞いていたのだが、適当に相づちくらいしか打っていなかったので
そう思ったのだろう、まだ怒りながら俺のほうを向く。
「そうは言うが……そういう話を詳しくも聞きたくないし」
痴漢話だし(--; その話を展開させるのもどうかと。まあああいうことが出来る奴はある意味
羨……なんでもない(ぉ
「じゃあ私が電車なんかで痴漢に遭っても、知らん振りするわけ?」
「知らん振りはしないだろうが……何も言えない性格なら助けるけど、『コレ』だからなぁ」
「どーゆー意味よっ」
山藤は頬を膨らませて、その頬にさらに食事を詰め込む。あんまりやけ食いすると太るぞ……
でも芸能界ではもっとありそうだよな、大御所とかにされると怒ることもできないとか……
いやそれでも山藤なら言うだろうな(苦笑)
「ま、はっきり意見いえる娘っていうのも、時代に合ってていいんじゃないか」
というか男でも自分の意見をはっきりといえない奴いるからな……俺か(汗)
「……案外そうでもないかもね」
ふいに怒り顔が消え、なにやら意味深な表情になる山藤。そりゃ誰だって隠し事とかは
あるはずだ、現に俺だって親父の仕事……ぶっちゃけちゃって楽になりたい、とか思ったり
したことも多々……よく考えりゃそれほど深刻でもない、贅沢な悩みなのだが。山藤の場合は
公私さらけ出す覚悟で芸能の道を選んだんだろうけど……さっきより口に含んだ量を少なくして、
彼女は言葉を続ける。
「知ってる?よく話をする親しい人ほど隠し事が増えるって」
それは初耳だが……親友には何でも話すってのが普通聞くが、つまり話す機会が多いから、
話そうと思ってやめること(=隠し事)が発生する回数が増えるということでは。あんまり
話をしない人に隠すような話もないしな。
「私の場合は――てっちゃんかな?」
「……俺?」
そりゃ学校ではそうかも知れんが、その口ぶりだと芸能生活でも含めてって感じが……
マネージャーの方が身近にいてよく喋ってるような。でもそっちの方が何でも話してそう
だよな、マネージャー女の人だっけ?親友みたいなもんだろう。てことは俺は……?
「……何だよ、隠し事って」
「言っちゃったら隠し事じゃなくなるじゃなぁい」
いたずらっぽく笑う山藤。いやそうじゃなくてだな……
「でもいつかは言いたいことはいつかは言わなきゃならないだろ。まあずっと隠し通したい
秘密もあるかもしれないけど」
本人目の前にして言うくらいだから、そんな後ろめたいことはないと思うけど。
「ん……またいつか言うわ」
と言うといきなり席を立つ。見てみればもう食器の中は空に……後から来て、しかも
よく喋っていたのに、俺より早く食事が終わるとは。俺が遅いのか、それとも職業上
早飯は必須なのだろうか。
「てっちゃんも、私に隠し事があるならまだ言わなくていいよ。でもいつか……ね」
最後にそういい残して返膳しに行った。別に隠し事って……俺自身のことはともかく、
彼女に対しての隠し事は……というかそういうのって、「彼女のことをどう思ってるか」
ってことなのか?しかしそれってつまり……
『もうすぐ昼休みが終わります。速やかに食事を済ませてください』
っと、もうこんな時間か。終わり10分前になるとこんな放送が流れるのな。俺はさっさと
残りをかき込むと、口の中にまだ残りつつも返膳に向かった。