「よかった」


「いやー、今年のテストも全部終わったか」

「お疲れ様♪」

 期末テストの結果が返ってきた。前よりは落ちていたが許容範囲内だ。瞳由ちゃんも今回は

いい成績を修めた様子。今日はお互いクラブがない日なので、偶然だが一緒に帰ることとなった。

「……おっ、あおいちゃん」

 校門まで出るまでに、トコトコと歩いてる女生徒を発見、見慣れた後ろ姿なので声をかける。

あおいちゃんは振り返って立ち止まる。

「これから帰り……ってわけじゃなさそうだね」

「ええ、家庭科クラブの買出しに……」

 よく一人で買いに行くのを見かけるが……そういう係りなのか?

「今日のは少しなので、一人で持てます……」

「そっか、じゃあまた明日な」

 軽く手を振ってすれ違った。また校門へ歩き出す。

「……今の娘、お知りあい?」

 瞳由ちゃんが不思議そうに聞いてくる。やっぱ別クラスだし、あおいちゃんは地味な娘だから

知らないのか。まあ俺も瞳由ちゃんのこと2年になって初めて知ったわけだし。

「ああ、照下あおいちゃんっていってね……七希菜ちゃんと同じ家庭科クラブに入ってるんだ」

「ふ〜ん……」

 何か腑に落ちないまま納得したような返事をされる。ちょっと気になったがそのまま

歩きつづけようとしたが。後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。

「あ、てっちゃ〜ん!?」

 今度は俺が名を呼ばれ、振り向くこととなった。しかもあだ名で……こう呼ぶのはあいつしか

いない。走ってくる山藤の姿が見えた。だが俺の前で止まろうという気配はないが。

「そんなに急いで、どこ行くんだ?」

「当然お仕事よ、移動時間ギリギリだからね」

 そう言いながら俺たちの前を走り去って行った。よく見ると校門前にはマネージャーのもの

らしき車が止まってある。

「やれやれ、仕事と学問の両立も面倒そうだな」

 感心か呆れか、自分でもわからないまま無意味に頭をかいてみる。瞳由ちゃんもしばらく

山藤のほうを眺めていたが、

「やまふじさんとも仲が良かったんだ」

「……ん?ああ『さんとう』ね……」

 やっぱ同じ学校に通ってる瞳由ちゃんも彼女を芸名で呼んでるんだな……って芸名って

わかりにくい名前なんだけども。

「なんか……結構女の子に人気があるみたいね」

「え、山藤が?」

「そうじゃなくて……テツ君が」

 俺?……確かに最近は、いろんな女の子と知り合ってるような気もするが……去年までで

仲が良かったといえば七希菜ちゃんくらいだったし。それを考えれば、この1年ってある意味

すごいラッキーな年だったかもな(笑)

「人気っていうか……やっぱり女の子には嫌われたくないから、機嫌とっちゃったりするとか」

 だからといって男に嫌われるのはいい、という意味でもないのだが(変な意味ではなく)……

結構俺って八方美人なのか?その性格も一部では嫌われるって話だが。

「実はナンパな性格とかぁ?」

 ここで瞳由ちゃんが笑いながらそう言ったのなら「そうだったりして(笑)」とか冗談で

言ってみたりしたかもしれないが、なぜか瞳由ちゃんはちょっと怒ってるような聞き方だった。

ナンパな男嫌いなのか?それとも俺にナンパになってほしくないのか……

瞳由 , 藍子 & あおい

「い、いや、俺はこの人と決めた人としか付き合わないから」

 もちろんこの「付き合う」というのは「彼氏と彼女の関係として」だが、今だかつてそういう

関係になった人は一人もいないのでこの言葉に説得力はない。もしかしたらそんな考えを

持ってるから、彼女ができないんじゃ……

「じゃあ、今付き合ってる人いるの?」

 まだ瞳由ちゃんは怒ってるような……というかふてくされてるようにも見えるのだが。

「いや、あいにく」

「なんだ、よかった……」

「ちょ、ちょっと、『よかった』って……」

「え?!あ、私もいないから、先越されたってことがないって、うん」

 失礼なことを言ってしまったと思ったのか、両手を振りながら慌てて弁明する瞳由ちゃん。

そういう先越された越されないって、同性同士で言う話じゃないのか?それに……瞳由ちゃんは

もてるだろうし、実際告白されたりしたんだよな。好きな人がいるからって断わってたけど、

そう考えると先越されるとかの心配なんてしてないはず……事情を知ってるからだけど、

やっぱり今のはでまかせとしか考えられないな。でも俺に彼女がいないのをイヤミで「よかった」

なんて思ってる娘でもないだろうし……

「ほ、ほら、早く帰ろっ」

 瞳由ちゃんに背中を押されて、考えが霧散してしまった。あんまり人の心内を探るのは

よくないな、普段あんまりしゃべらないから、俺の癖みたくなってしまったな……


Next Home