年賀状


「お兄ちゃ〜ん、もうお昼だよ〜?」

 ……朝じゃないのか?……そうか、遅くまで起きてたから……

 ガチャリ。俺の部屋の扉が開き、軽めの足音がベットに近づいてくるのが聞こえる。部屋は

あまり使ってないのでそれほど散らかってないし、妹に見られても恥ずかしいもんでもないしな。

「ほらぁ、昼ごはんもうできちゃったよ〜」

 ここは俺の家、正確には「タイト家」だ。同じマンションでも1部屋なんかじゃなく

親父や妹の部屋、親父の仕事部屋なんかある、結構贅沢な住まいだ。年末年始はさすがに

こっちで過ごそうと思い帰ってきたのだが、その「年末」が終わり今日から「年始」……正月だ。

「……ああ、起きるよ……」

 紅白歌合戦見て、行く年来る年見て、ソバ食べて新年のご挨拶。親父からお年玉をもらう。

まあいつもの月の小遣いと同じ額だし、今月の小遣いはそれが代わりとなるのであまり意味は

ないのだが、やはり手渡しでもらえるのは何となく嬉しい。俺もまだまだ子供だな。

 それが昨日……じゃなくて今日の午前1時とかで、そのあと3時くらいまでTV見てたから

それからぐっすりと……それで12時近くまで起きなかったのか。

 妹を部屋から追い出し、パジャマを着替える。そうか、2002年が始まったんだな。

 

「お、今年はいっぱい来てるじゃないか」

 昼食後、家族揃って年賀状の仕分け。友達の少ない俺だったが、今年は確かに枚数が多い。

といっても10枚程度なんだがな。そういう親父のは、ここに来てる枚数は少ないものの、

漫画家としての年賀状が何百枚も毎年来て、それは出版局のほうから受け取っている。あくまで

近所からは漫画家ということを伏せているからな。一方の妹・セイは友達が多いので、今年も

数十枚もらっている。

「ホント、七希菜さんと佑馬さんと、他に誰?」

 中学から毎年2人からはもらっており、もちろん今年も来ている。佑馬のは自分の名前の

「馬」の字をやけに強調していたりする。七希菜ちゃんのは真面目な挨拶ながらもどこか

かわいらしい印象をうけるのが不思議だ。

「まあ待て……あおいちゃんに、瑠璃絵さん……?」

 あおいちゃんのはぽそっと文字だけ、瑠璃絵さんのはかわいい馬の絵が描かれてたりするが、

2人に住所教えてたっけ……? あ、電話帳で探したんだな、「タイト」って苗字他にない

だろうし、カタカナで書いてるから見つけやすいだろうし(漢字で書かれてたらもっと

わかりやすいだろうが、印字できんだろうな……)。

「あれ、この山藤藍子って人……芸能人の『やまふじあいこ』と同じ名前だね」

「え?あ、まあな……」

 間違いなく本人なのだが……やまふじあいこが俺の通う学校に入学したって知らないのか?

そういやセイって芸能ニュースあんまり見ないんだよな、俺に似て、つーか親父に似て。

あとは美鳥や宗谷や上久部長とか。さすがに針井からは来てないな、というか年賀状って

習慣すら頭にないのだろうか?それでもお年玉はちゃっかりもらったりな。

「!!お、おいテツ、それ……」

 突然親父が、俺が持っていた年賀状の束を指差してわなないたので、何事かと思い最後の1枚を

覗いてみる……送り主は瞳由ちゃんだが、裏に返してみれば……ああ、そういうことか。

絵柄は白馬にまたがった王子様……ちょっと正月っていうのには似つかわしくないが、もっと

似つかわしくないのは、その王子様ってのがSuper-Abilityのキャラってこと。つまりいちファンが

親父の家を突き止めて年賀状を送ってきたと思ったのだ。前々から同級生で熱狂的ファンの娘が、

と言っていたので(クリスマスパーティのプレゼントを用意するときにも言ったし)、説明には

そう時間はかからなかった。

セイ

「……ああ、その娘が例の……引越ししなきゃならんかと思ったよ」

「んな大袈裟な……」

 実際引越しは小学生のときに1回あったが、もちろんバレたから、などという理由ではない。

ともかく今年はいっぱい年賀状が来たな。女性割合が高いのはなぜだか知らんが(汗)

「あ、親父、明日みんなで初詣行くから」

「みんなって、そのファンの娘もか?」

 ……瞳由ちゃんな。そういう呼び名はやめろよ……

「ああ、あと佑馬と七希菜ちゃんもな」

「ええ〜、今年は家族で行かないの〜?」

「セイだって友達誘えよ」

 友達も家族も大切に思えるなんてわが妹ながら立派だよな。当然両方が成り立つことは

ほとんどないのではあるが。俺は結構家族をおざなりにするよな、かといって友達思いって

わけでも……とすると残るのは――ガールフレンド?(爆)


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