最終決戦(前)


 3学期始業式。まあいつものことなのだが、やっぱり冬は体育館で立ってるのは寒い……

校長の話中、生徒たちはしきりに手をこすり合わせてたなぁ。それもやっと終わって、

クラスで先生の話。中学のときはここで宿題の提出なんてあったが、私立なおかげか

冬休みの宿題なんてものは一切無い。まあそのぶん自主学習は当然ってな雰囲気なんだけどな、

俺は全く……修学旅行前の確認テストが心配だ(汗)

 そいでもって放課……今日はクラブ無い日だから(やっとクラブが再開できる状況だけど)、

特に学校での用事も無かったので、さっさと帰ろうと思い下駄箱までやってきた。そこに……

「よう、久しぶりだな」

 待ち伏せしていたようにそこに居たのは荒井田……すっかり忘れていたが、こいつまだ根に

持ってるのか?いい加減にしてくれよ……俺が黙っていると、腕を組んで下駄箱に寄りかかった

まま言葉を続ける荒井田。

三郎

「今年もあいこちゃんにまとわりつく気か」

 そしてやはりこの話題か。だから別にまとわりついてるんじゃなくて……って説明するのも

面倒だし、聞く耳もたんだろうが。面倒なことにならんよう返答したい気もするが、ここは

ビシッと言っておきたい気分だ。以前なら、からまれたくないから『いや、近づかないッス』

とか出鱈目でも言ってその場をしのごうと考えてたが、今では

「あんたにどうこう言われる筋合いは無い」

ってはっきり言えるもんな……あ、言っちゃった。

「ほう……いい度胸だな」

 荒井田が拳を鳴らしだす……やっぱ暴力で解決しようとするんかい。でもここじゃ人いっぱい

寄ってくるだろうし、先生にも見つかりやすいぞ?別にビクビクすることはない。

「じゃ、俺急いでるから……」

 何食わぬ表情を装って下駄箱の靴を取る。荒井田は邪魔をするような動きはしない……

さすがに奴もその辺はわかってるのか?安心して外に出ようとしたそのとき。

「……マンガ家の息子なんだってなぁ」

 !! な……

「な、んで、それを……」

 思わず振り向いた先には、既に勝ち誇った荒井田の笑い顔が。

「俺の伯父さんが、お前の親父の担当なんだと。正月に酒に酔っ払った勢いで喋っちゃってよ」

 担当って……南部さんだっけ?なんてことしてくれたんだ……親父が知ったら担当降ろされ

かねんほどの大チョンボだぞ……

「お前の親父もお前も、マンガ家って周りに知られたくないらしいんだってな」

「……言いふらされたくなかったら彼女に近寄るなってか」

 この場合は彼女から近づいてきても避けたり無視したりしろってことなのか?……まあこいつが

卒業する3月までガマンすりゃいいことか。留年せずに卒業してくれたらの話だけど。

「それだけじゃない、あいこちゃんの前ではっきりと言え、『お前のことは大嫌い』だってな」

 なに……荒井田のくせに巧妙なことを……確かにそれなら金輪際彼女が俺に寄ってくることは

なくなるだろう。でも……今の俺にはそんなことが言えるはずが無い。面と向かって言って

しまったとき、彼女が悲しむ顔が浮かんできた。怒り顔ではなく、泣き顔が……

「あいこちゃんにここに来るように言っておいたからな、お前から大事な話があるって……」

「……それは……できない」

 俺がぽそりと言うと、荒井田は「ハァ?(゚д゚」な表情で俺を睨んだ。

「だったら、言いふらしていいんだな、マンガ家のこと!?」

 既に俺の頭の中には、2つのことを天秤にかける、なんてことすら考えてなかった。藍子に

嫌われるくらいなら、秘密をバラされてもいい。2人とも有名人になってお似合いじゃないか。

「勝手にしろ、俺は藍子に嫌われたくない」

「あいす……って、テメェ……」

 最近になって下の名前で呼びだしたことがあだになってか、取引はどこへやら、荒井田を

逆上させてしまったらしい。俺らのやりとりを見ていた野次馬生徒たちに目もくれず、

拳を俺の顔面へと……って、マジで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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