針井→


 3年生はセンター試験、ご苦労さん……俺も来年は受けるんだろうけど。1・2年の試験は

終わってて、特に2年はもう修学旅行が目の前だ。今日は久しぶりに再開されたバンドクラブに

来ているのだが、2年ばっかなのでまた数日間締めっぱなしになるのだろうが。

 まあ2人とも(針井は相変わらずだが)元気になって本心からよかったと思う。

俺がキーボードの練習ができるだけじゃなく、皆でバンドができるってことだな。

しかし、なんか前とは違う雰囲気を感じてしまうのだが……それは多分、宗谷が以前ほど

針井にからまなくなったことだ。会話の回数はさほど変わらないけど、あのベタベタぶりは

なりを潜めている。そりゃあれはやりすぎだと思うから、それがマシになったと考えれば

いいんだけど……逆に違和感があったりして。

 

「……じゃ、今日はここまでにしない?」

「そうだな」

 しばらくやってなかったこともあって、今日は長い時間練習した気もするが、ただ暗く

なるのが早いからそう思っただけかも。実際は1時間ちょっとだ。楽器を片付け、戸締りを

確認してから部室を出る。校舎の方はまだ明かりがついている教室も多い。テスト明けとはいえ、

感心するなぁ。それを口にすると

「なんかあてつけっぽいんだけど?」

 と宗谷に座った目で見られた。気付けば針井の姿が無いが……

「針井は?」

「行くとこがあるって……もう一つのクラブかしら」

「……オカルト?」

「なんでシャノンが……もうちょっとまともな想像してよ」

 思ったより激しい反論がないのでまたも違和感。なんか、針井から興味が覚めた……?

「大人になったんだな」

「……? 誰が?」

「宗谷だよ、針井にベタベタしなくなったじゃないか」

「まぁね……また『ウザイ』とか言われたくないし」

 確かにあれは傍から見てもウザかったかも……(^^; しかし慣れちゃったんだよな、

あれも含めて「宗谷らしい」と思ってしまったんだから。どっちかといえばあれは欠点

だったんだから、それがなくなって良いことには間違いないが。

「ま、もっと冷静に針井好みの女になろうと考えられるように」

「……それも悩んでるんだよね……」

 腰に手を当てて一番星を眺める。しかしよく見れば飛行機だったり……それでも目で追ってしまう。

「クリスマスパーティの帰りに、シャノンから、高校卒業したら海外の大学に行くって

 聞かされちゃって」

 ああ、あいつもそんなこと言ってたっけ……宗谷は知らなかったのか。てことは針井、

ああ見えて英語はトップクラスの学力ということか……ま、生まれついての環境が

そうさせたんだろうけど。

「『それでもオレを追いかけてくるのか』ってね。迷っちゃったな……」

 迷うってのは、自分も同じ外国に行くのか、遠距離恋愛でメールとかやりとりするのか、

あるいはあきらめるか……宗谷に限って最後のは無い、と思ってたのだが。

「その晩迷って迷って……迷ってる自分に気付いて、ただのミーハーだったのかなぁ……って」

 ミーハー……そんな言葉もあったなぁ、このまえ日曜日の討論会で「みぃちゃんはぁちゃん」

って大人たちが連呼してたが、それもどうかと……は置いといて、これは宗谷、針井を

諦めるのか?!それはなんかもったいないというか……折角仲直りできたというのに。

「それにシャノンも言ったんだ、今は恋愛とかにあまり興味がないって」

 欲の無い男だな……ギター一筋なのか?それとも単に他人に無愛想なだけか……今だって

なんの断わりもなくいなくなっちゃったし。

「見た目だけ良くてもな……」

「別にルックスだけで好きになってたんじゃないんだけど」

 俺だってイケてると思う日はあるんだぞ、……イケテないって日もあるけど。毎日同じ顔な

はずなのに……疲れたりむくんだりして、微妙に変わるものなのか?

「ま、他の恋にも目を向けてみようかなぁってさ」

巫琴

 手を頭にやってこちらをチラッと見る宗谷。その考えはわかるが、なんでそこで俺を見る……?

まさか……って考えすぎか?そりゃ針井並に身近な存在かもしれないけどさ、そんなころっと

気持ちが変わるもんかね。でも2人が仲直りするために俺が頑張ったから、宗谷の中の俺の評価が

上がったとか……だから宗谷が俺に気持ちが傾いてるんじゃないかって考えるなって、

今言っただろ俺!!

 学校出て交差点まで一緒に帰る間、俺の方が目を合わせられなかった……


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