お前にそっくりだな」
「それを言うなら、この『サクラテツ』の主人公、変態じゃん」
「…………」
佑馬がコミックを買いに行くというので、暇だったのでついて行くことにしたが、あいにく
売り切れかしたかで見つからなく、週刊誌でも立ち読みしてたりする。いろんな漫画が増えると
いろんな名前のキャラが増えるわけで……変な奴とかぶるのはやだなぁ、やっぱり……
「でもさすがに七希菜って名前のキャラはいないでしょ」
なぜか佑馬は自慢げに答える。というかなぜ「七希菜」って名前を付けたのか、彼女の親に
尋ねてみたい気もするが……逆に俺の方が尋ねられたら困るのでやめておこう。
「FFVIIのレッドXIIIの本名は『ナナキ』だけどな」
「あんなのと一緒にするな……あ?」
雑誌を置いた佑馬が窓の外を凝視する……その先には噂していたからか、その七希菜ちゃんが
街中を歩いていた。どこか買い物にでも行く途中なのだろうか。俺も雑誌を置いて、
「どした?付いていかないのか?」
佑馬はただ彼女を眺めるだけで動こうとはしなかったので怪訝に思ったのだが。
「だってほら、多分アレを買いに行ってるんだろ、そういう時期だし♪」
「……? ああ、チョコか?」
七希菜ちゃんは毎年手作りのチョコを佑馬にあげている。かくいう俺も貰っているのだが
(初めて貰ったときは、妹以外で初めて女の子からもらったから、超嬉しかったけど)義理……
というより友情の印としてくれたんだろうな。去年までは佑馬も俺も同じものだったけど、
今年は佑馬のはバージョンアップ(笑)するんだろうな。まだバレンタインには間があるけど、
いつもよりも待ちきれないんだろうか。それに材料とか売り切れちゃうかもしれないしな。
佑馬と分かれた後、一人でゲーセン(ビーマニ)。そろそろ5鍵7th MIXが出るって噂だけど……
まだ出てなかったのでちょっとだけやって早めに帰ることに。ゲーセンから出てきたところで
「あっ、タイト君」
「っと、七希菜ちゃん」
買い物から丁度帰ってきたのか、七希菜ちゃんとばったり出くわした。彼女も帰りだと
いうことで、途中まで一緒に歩いていくことにした(行きは佑馬に合わせていたため、
自転車ではないのだ)。
「買い物袋、持とうか?」
「えっ、でも気を遣わなくても……」
「いいって、なんか手持ちぶさただし(笑)」
本当は買ったものがなんなのか知りたくて、中を覗くまではいかなくとも重量や音で何か
推察しようと思っただけなのだが。これでもし下着とかだったらアホだな(爆)
しかし七希菜ちゃんは
「じゃあお願いしようかな……ちょっと買いすぎちゃって重くって」
と照れながら袋を俺に渡してくれた。あんまり中身を見られるのは気にしないのか、
すぐに中が覗けられた。そして中身は予想どおりのものだった。
「佑馬が期待してたよ、チョコレート」
「そうですか……そうでしょうね(^^)」
「いやぁ佑馬の奴うらやましいよなあ、こんなかわいい娘からチョコレートもらえるなんて」
別に七希菜ちゃんをおだててるわけでもなかったし、俺も毎年彼女から貰ってるので
この発言は半分矛盾しているが、「本命チョコをもらえる」という意味で言ったまでだ。
くれるのは嬉しいが、やはり本命でないものはそれほど価値が無いように俺は思うのだが。
あんまりチョコレート食べないからかな……
「タイト君だって、列戸さんからもらえるんじゃないんですか?」
いきなり七希菜ちゃんが悪戯っぽい質問をしてくる。ありえん話でもないが……
「でも瞳由ちゃん本命いるらしいから……」
いつか立ち聞きしてしまったことを思わず口にしてしまう。まるで本人から直接聞いた
みたいじゃないか。違いがあるのかといえば、「俺」が含まれるかどうかの話なのだが……
「……そうなの?」
信じ込んでしまったのか、七希菜ちゃんは意外そうな反応を見せる。そりゃ瞳由ちゃんは
隣に住んでるから、佑馬と七希菜ちゃんの関係に似てるけど、その2人が10年以上も一緒にいて
やっと最近恋人同士になったんだからな、まだ知って1年もなってないのにそれは……な。
「だったらテツ君、私が……あっ」
何か言おうとして、急に口を塞ぎ黙りこむ七希菜ちゃん。何を言いかけたんだ?話の流れだと
『私がチョコをあげようか?』ってことになるが……佑馬に遠慮して作るのは1つだけにしようと
してたのに、ってのじゃなさそうだよな。
「あ……もう、ここで……」
顔を赤らめながら俺が持っていた買い物袋を半ばひったくるように取り返すと、軽くおじぎを
して小走りに彼女の家のほうへ行ってしまった。しばらく呆然と彼女のほうを見る……
なんか変なこと言ったのか?