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 放課後、クラブが無い日なのでさっさと帰ろうとしてみる……22HRの前を通りかかった時、

ふとあおいちゃんの顔を見たくなってクラスを覗いてみた。クラブのある生徒は皆早く部室に

向かうので、あっというまに教室は空になる。あおいちゃんも鞄を整理して料理クラブに行こうと

している所だった。クラブが無い日だったとしても、一緒に帰ろうとしても家が近くだから

虚しいんだよなぁ……などと考えながらも、帰りのあいさつくらいはしておこうと、教室の外で

待ち構えていたのだが。

「あの……恵理さん……」

 あおいちゃんが益田の名前も呼んだ。益田もまだ残っていたのか、同じ料理クラブだから

待ってたのだろうか。

「なに?」

「恵理さんが……その、サテルを……」

 サテルというのは……俺がUFOキャッチャーで取った、丸い球体のことだっけ。彼女の弟の

代わりにしてたという……2回取ってあげて、2つともなくなっちゃったんだよな。俺は益田を

疑っていたが、あおいちゃんもなのか……?他の生徒の声も無くなったのかしばらく声が

聞こえなくなる。そして

「……そうよ」

 重苦しく益田がつぶやいた。

「あおいがもうあんなのに頼らないようにね。黙ってたのは悪かったけど」

「……違います」

 益田の言葉をさえぎったあおいちゃんの声はやけにしっかりとしていた。どんな表情をしてるか

気になったが覗く事も出来ず、扉の外で立ち聞きするのみである。

あおい & 恵理

「恵理さんが、サテルを欲しかったんでしょう……?」

 一瞬、変なことを言うもんだ、と思ってしまった。それは益田のいい訳に一理あったからだが、

まさか益田がそれを欲しいから、なんて理由で盗ったとは思いもしなかったから。さすがに

それはないだろう、益田も否定するはず……だが、益田は何も言わない。

「知ってます、恵理さんが正輝のことを好きだったって」

「言わないで!!」

 今度はあおいちゃんの言葉を益田がさえぎる形に。そういうことか、丸いのを弟代わりに

してたのはあおいちゃんだけじゃなくて、益田もだったということ……というか、益田も

恋とかするんだなぁ(ぉ

「……取ったことはいいんです、でも1つは返してくれませんか……」

 ごもっとも、益田の手元には丸いのは2つあるはずだ、「彼」の代わりなら1つで十分。

お互い大事な人を失ったのだから、1つずつ分け合うのが筋だと思うのだが。

「ゴメン……初めのは捨てたんだ、こんなのに頼ってちゃダメだって」

 ぼそりと語る益田の声は、泣きそうになる直前のように震えていた。

「……でもあおいがまた新しいのを持ってるのを見たら、また思い出しちゃって……

 でももう一つのは返すよ」

「……いいです、私はもう無くても平気ですから……」

 益田って意外と弱い所もあるんだな、そんなに正輝のことを好きだったのか……初め俺が

あおいちゃんに弟のことを思い出させてしまったときに益田があんなに怒ってたのは、

自分にも思い出さされてしまったからなのだろうか。あおいちゃんの方が先に吹っ切れたと

いうのも意外だが。

「それは……タイト テツね」

 いきなり名前を呼ばれて、立ち聞きしてたのがバレたのかと思いドキっとするが、前後の会話を

冷静に考えて繋げてみる……あおいちゃんが平気なのは、俺のおかげ……?そういえば本人も

そんなことを言っていたような気が。

「あいつと一緒にいると、弟のことを忘れられる。そうでしょう?」

 あれ?てっきり「俺が弟の代わり」とされてたのかと思っていたが……でもそれだと、

弟を好きだった益田は、似ている俺のことも……なんてことになっちまうし。本人が違うっぽい

発言なんだから違うんだろうけど……?

「あいつのことが……好きなんでしょ」

 ……益田がぽそりと言った。俺は耳にして意味を理解するまでしばらく時間がかかった。

しかしそれ以上の時間、あおいちゃんは返事をしなかった。もし俺に特別な感情を抱いて

いないのなら、いいえとすぐに答えられるだろう。でもそれをしないということは……

答えはわかっていたが、彼女自身の言葉で聞かないと信じられない。あおいちゃんの表情を

見ることができないのがだんだんと辛くなってきたが、ここで姿を現したら答えを聞けない

ような気がする……

「テツ、何してんの?」

 お……!? いきなり背後から声をかけたのは佑馬……?! ば、バカヤロ……

「!? タイト?!」

 益田が声に気付き、廊下のほうへ駆け寄ってくる足音が聞こえる……と同時に俺は佑馬を

つかまえて猛ダッシュですぐそこの男子トイレへ……ここならさすがに探しにはこないだろ……

「てて……なんなんだよ?」

 わけもわからず襟のあたりをさすっている佑馬。こいつのせいで……そりゃ俺も逆の立場

だったら声かけてたかも知れないけどさ……そもそも逃げることなんてなかったかもしれない。

面と向かって気持ちを伝えてほしかったし、伝えたかった……今更それはできないのだが。


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