好きの理由


 朝、いつものように学校に行くためマンションの自分の部屋を出る。俺が外に出た丁度

そのとき、隣でも扉が開いた。

「あ、おはよう……テツ君」

 恥ずかしそうに挨拶をする瞳由ちゃん。きっと俺も顔が赤くなってるんだろうな……

「お、はよう……」

瞳由

 昨日(正確には今日だが)のことがあったからな……そばにいるだけでものすごい照れくさい、

これがずっと続くのかな……半分嬉しいけど、半分困ったな……これが自然に思えてきたら、

二人は恋人……なんてな。瞳由ちゃんが勇気出して俺にチョコレートくれたんだ、俺も彼女に

応えたい。でも……やっぱりハズい……考えがまとまらなくて頭の中も「……」でいっぱいだ……

「あの……テツ君」

 不意に瞳由ちゃんが声をかけてきたので思わずドキリとする。今までこんなことなかったのにな

……彼女のことを意識してるって証拠だ。

「な、なに?」

「す、スキーのことなんだけど……」

 い、一瞬「好き」って言ったのかと思った……紛らわしい……ああそう、修学旅行であんまり

滑れなかったから、今度近くのスキー場に一緒に行こうって。……一緒に。二人で。

「3月になっちゃうんだけど、初めの土曜日に。いいかな……?」

 まあスキー場なら人工雪で3月くらいまではやっているだろう、期末テストは2月の最終週

(つまり来週)には終わるから、心置きなく遊べるよな。……でも多分スキーどころじゃ

ないんだろうけどな……

「……ああ、そのくらいがいいんじゃないかな……」

「本当?……それじゃあ予定空けておくね」

 ……これってやっぱデートっていうんだろうか、でもまだ付き合ってるってわけでもないし

……そもそも付き合ってるってなんだ?友達としても付き合ってるって使うし……もっと他の

呼び方があるんじゃないのか?

 

「……で、なんで僕なの?」

「いや……真面目に話し合えるのがお前くらいしか」

 昼食時、無理矢理佑馬をひっぱりだして食堂で一緒に食べながら話を聞いてもらうことに。

佑馬の昼飯は七希菜ちゃんと一緒に食べるための弁当だったのだが。あと、一応相手が誰なのかは

伏せておく。ひやかされるのは彼女に悪いからな。でも予想はつくだろうな……

「せっかく今日も七希菜と……でも、テツもとうとうなんだね(笑)」

「……」

 今回ばかりは反論できん……一応佑馬の方が「先輩」だからな。でも本当にこいつを先生に

していいものかどうか?

「あー、僕にもそういう時期があったなぁ、『友達以上恋人未満』っていうの」

「いや、どっちかというともっと恋人寄りっつーか……」

「……どういう状況でチョコもらったの」

 夜中に泣きながら……なんていくら佑馬にでも恥ずかしくて言えん……適当にごまかしておいて。

「じゃあ……ほぼ恋人」

「そのままじゃん」

「ニアリー恋人」

「英語にしただけだろ」

「好きだけど言えないの」

「……なんのこっちゃ」

 やっぱ佑馬に聞いたのは失敗だったな……呆れて肘までつく俺にさすがにムッとしたのか、

「だったらさっさと告白しちゃえばいいじゃない」

 あのな、それが出来たら苦労はないんだよ……というかな、瞳由ちゃんは俺のことを(多分)

好きと思ってるだろうけど、俺のほうは彼女を好きかどうかわかっていない。ただ向こうが

好きでいてくれるから、俺も……なんてのは失礼なんじゃないか、とは思っているのだが、

それは七希菜ちゃんにベタボレな佑馬に言っても仕方ないことで。

 

 結局大した糧にはならなかったのだが、とりあえず俺が彼女に惚れてる点を探すことにした。

午後の授業中、瞳由ちゃんの方をぼーっと見ながら考える。まず明るい……は一般的すぎ。

勉強ができ……るけど俺よりちょっといいくらいだし、それは好きの理由にならない。

そばにいて安心できる……ってのが「好き」なんであって、じゃあなんでそばにいて安心できる

のかというと……わからん。別に嫌いな所がないから、って子供の発想でもないし……あ、

"Super-Ability好き"ってのは勘弁して欲しいが(苦笑)

 そもそも、瞳由ちゃんは俺のどこに惹かれてるんだろう。俺なんかぶっきらぼうで怠け者で

遊び好きで、まあ顔は親に感謝かな?(ぉ ……彼女が面食いでないことを願って。一応

俺も顔だけでは選ばんぞ、そりゃ瞳由ちゃんもかわいいけどさ……瞳由ちゃんが消しゴムを

落として拾っている。そのとき俺と目があって――恥ずかしそうに目をそらした。


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