HIDDEN HEART


 今日も学校が終わると、自然とゲーセンへ向かった。……というと単なる遊び好きに聞こえて

しまうが、最近はビーマニ目的というより、美鳥に会うためになってるのかも知れない。

まあそれは6th styleにもさすがに飽きて、早く7thが出ないかなぁと思っているせいもあるが。

家庭用を借りているにもかかわらずゲーセンによく来てくれる美鳥を見ると、俺もほっとする。

「あーあ、早く7th style出ないかな〜」

「まだ早いよ(^^; でも家庭用6thもゲーム雑誌の予定表にも書かれてないね」

 ゲーセンに遊びに来ているはずなのだが、こうやってベンチに座って話している時間が

多くなっている。ビーマニやりすぎて疲れたわけでも、並んでる人が多いわけでもないのに。

「しっかし、本当に誰もやってないなぁ」

 前にも言ったが、今も貸切状態。しかもポップンやDDRも。みんなあの新しいゲーセンに

客を取られたのだろうか。そのせいで音ゲーコーナー縮小――なんて事はないよな?

たとえそうなってもIIDXは残してくれよ……

 ま、ここのゲーセンはどっちかというと格ゲーの方が流行ってたりする。トーナメント大会

なんかも定期的にやってるみたいだし。俺は格ゲーと言えば中学のころはやっていたが、

ビーマニやりだしてからはほとんど……両方極めるわけにもいかないし、対戦はあんまり

好きじゃないんだよな、弱いわけじゃないけど、連勝しすぎるとリアルバトルになりかねんし(汗)

2・3度絡まれそうになったけど、腰低くしてればそれ以上は絡まれなかったのが救いだが。

 それでふと格ゲーコーナーの方に目をやり――なんか人がいっぱい集まってるな、今日も

大会があるのか?たまにはどんなものか覗いてみるかな……と思った矢先、何か雰囲気がおかしい

ことに気づいた。誰かが怒鳴り散らしているのだ、トーナメントの実況とかじゃなく、

明らかにケンカごしだ。音ゲーコーナーが珍しく静かなので、その声がこちらまで響いてくる。

まさか「リアルバトル」なのか?思わず立ち上がって見に行こうかと思った矢先。そでが下に

引っ張られた。

「……美鳥?」

  「……いや」

 引っ張られたほうを見やると、美鳥が俺のそでをつかんで震えているのが見えた。顔は下を

向いているが、蒼ざめていると見当がつく。……あのときのことを思い出したのだろう、

LUISさんが自分をかばって殴られたことを。この前会ったLUISさんにはそのときの跡なんて

見られなかったし、本人はそれほど根にもってなさそうなのでもう気にしなくていい、と

思うのだが……美鳥はまだトラウマになっている。

 バキッ、ガンッ

「……っ!」

 妙に鈍い音がして、その直後周りで再びざわめきが起こる。その音を聞いて何が起きたのか

考えてしまった美鳥は、小さく悲鳴を上げて耳を覆った。誰かが殴られて倒れたか、

筐体に体のどこかをぶつけた音だ……すぐに店員が駆けつけて殴った奴を捕まえようとしたが、

あれだけの野次馬の壁になかなか割り込めない。あの間に殴った奴に逃げられるんじゃないか?

 再び美鳥に目をやったが、まだ頭を抱えてうずくまっていた。床にポツポツと滴まで……

この前LUISさんに会ったせいで、そのときのことを鮮明に思い出してしまったのだろう。

美鳥

「なあ美鳥、こういう言い方も変だが、LUISさんと別れてから、お前のせいで彼がが殴られる

 なんてことはないだろ?再びは起こらないんだから、そこまで思いつめなくても……」

「……起こる……よ」

 顔をあげないまま、涙声でつぶやく美鳥。鼻をすする音が聞こえてから、

「テツが……私のせいで……殴られたら」

 あ……思わず口に手をやってしまう。美鳥にとって、今の俺は昔のLUISさんくらい大事な人と

思われている……なだめることばかり考えて、大切なことを忘れていた俺の失言だ……

もっと彼女の気持ちを考えてやればよかったのに……だがまだ遅いわけではない。LUISさんは

『彼女のトラウマを断ち切ってほしい』と言った。多分俺にしかできないことだし、俺たちが

本当に楽しくやっていけるためには、どうしてもやらなければならないことだ。そしてそれは、

今の瞬間やるべきことなのかもしれない。だが……何をすればいいのかわからない。

 またざわざわしていたので視線を戻せば、警察官まで来ている。店の人が呼んだのだろう、

LUISさんのときもそうだったのだろうか。だとしたら、ここにいたら美鳥にさらに辛い思いを

させてしまう。

「……出よう」

 俺は美鳥の手をつかんで立ち上がった。美鳥は逆の手で目をこすりながら、頭をうなづかせた。


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