雪の降る中


 その日は、もう3月に入ったというのに雪が降っていた。朝起きて外をみると数センチは

積もってて、まだ降っていた。この冬最後の雪になるかな、なんて思わせるほど、この辺りでは

珍しい大雪だった。

 

 今は放課時間である。雪の中傘をさしながら学校から帰る俺は小腹も空いたことだし、

瑠璃絵さんがバイトしているコンビニで買い食いすることにした。というか最近はそのパターンが

多くなっている。しかも瑠璃絵さんがバイトしてる曜日に限って……俺も単純だな。

 コンビニが見えてきた。寒いのでさっさと店内に入ろうとして……道路の向こう側で、

瑠璃絵さんらしい人影がきょろきょろ辺りを見回してることに気づいた。ここのコンビニの

エプロンしてるから多分彼女だろうけど、何やってんだ?

「瑠璃絵さーん?」

 雪が降ってると声がくぐもって聞こえるのでやや大きい声で話し掛ける。俺の声に気づいた

瑠璃絵さんは車が来ていないかを確かめ、こちら側へ小走りでやってきた。

「はぁ、テツくん……どうしよう」

 いろいろ走っていたのか息があがっていて白い湯気がいくつも出来る。表情は寒さもあるかも

しれないが、やけに白くて優れない。

「どうしたの、何か落し物でもしたの?」

「そうじゃなくて、ライトが……猫がどこか行っちゃったの」

「えっ」

 ここのコンビニで飼ってる白猫だよな、俺と瑠璃絵さんがが拾ってきた……最近は寒さで

カウンターに姿を見せないけど、まだ飼ってたのか。しかしこの雪のなかに出て行ったなんて……

「店の中にはいないの?」

「ええ……いつもこの時間はごはんの時間だから、匂いで寄ってくるんだけど……

 今日はどこを探してもいないから、多分外かと思って」

 それで外にか……でもどこまで歩いていったとかわからんぞ、この辺にいないかもしれないし。

かといって瑠璃絵さんは店を離れるわけにはいかないだろうし……

「店の方は店長ともう一人のバイトの娘がやってくれてるから、探してきていいって」

 あ、そうすか……猫好き店長だから承諾したんだろうな……

「よし、じゃあ一緒に……手分けして探そう」

「ええ」

 効率を考えれば二手に分かれるのが一番だが、うっかり一緒に探そうなどと言いかけて

しまった。でも瑠璃絵さんが今まで探してて疲れてるだろうから、無茶させないように

見てなきゃいけないような気がして……でもライトの方が危険な状態だ。四の五の言っては

いられないだろうし、瑠璃絵さんも同じことを考えているだろう。とにかく俺は店の周りを

右回りに探すことにした。瑠璃絵さんは左回りだ。

 

「……いた?」

「…………」

 丁度店の裏手で再開し、わかっている答えの質問を投げかける。瑠璃絵さんは首を横に振る……

雪の降る勢いは強くはなっていないが、弱くもなっていない。確実に積もってきている。

こりゃ本当に目を皿のようにして探さないとマズイな……自分の荒れてる息を静めようとして、

ふと彼女の息遣いがさっきより荒くなってることに気づいた。そんなに激しく息してたら

喉をいためて……

瑠璃絵

「……瑠璃絵さん、一旦店に戻ろう」

「え、でも……ライトが」

「瑠璃絵さんは休んでて、しばらく俺一人で探してるから」

「そんな悪いよ、ライトから目を離してた私が悪いんだし……」

「責任どうのこうのはいいから……瑠璃絵さんの体だって心配だよ」

 声をやられて歌いづらくなる、というのも頭にあったが、とにかく彼女自身のことが

心配でならなかった。俺がそばにいるってのに風邪なんかひかせてしまったら……

「でも、テツく……」

 突然言葉を止め、息まで止めて耳をすませる瑠璃絵さん。俺にも聞こえたような気がした……

猫の鳴き声。店とは反対側、河原沿いの……2人して道路の脇へ駆け寄る。そして再び

耳をすまし……今度ははっきりと聞こえた、か細い鳴き声が……ライトのものかどうかは

わからないが、とにかくここを下りてく必要があるな。

「雪が結構積もってるから、ゆっくり下りた方がいいね」

「ええ……」

 俺が先に下りていって、後から瑠璃絵さんに手を貸すことにした。だから先に雪で

滑ったらかっこ悪い……いつになく慎重に下りていく。1/3くらい下りた所で振り返り、

彼女に手を伸ばす。彼女も慎重に下りて来、俺の手を取って……ちょっとだけ彼女の体重が

俺にかかった瞬間。

 ズルッ!!

「ぬあっ!?」

「キャッ!?」

 まさか動かさない足が滑るとは思いもよらず、瑠璃絵さんの手をひっぱったまま(というか

さらに力をいれてにぎってしまう)後ろへ倒れこむ。倒れこむ瞬間にまず考えたことは、

後頭部を守ることだよな……というか考える前に反射的に体を丸めていた。人間って意外と

冷静なんだよなー、なんて考えてると……目の前に瑠璃絵さんが飛び込んでくるのが見える。

そして今度は男性的反射か、彼女が怪我しないようにしっかりと抱いたまま、衝撃を待っていた。

その間、多分1〜2秒。

 ガッ! ズザザザザァー!!


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