存続の危機


 放課後、今日はバンドクラブの日なので部室へ行く。考えてみれば、我ながらもう1年近く

続けているんだなぁ……初めは人数少なくて大丈夫なのかな、とか思ってたけど、宗谷や針井、

上久部長と演奏していたら、だんだん楽しくなっていったものな。……針井と、はともかく(ぉ

 で、部室についてみると、なにやら静かなのでまだ誰も来ていないのか、と思ったが、

扉は開いている。中を覗くと宗谷がテーブルに向かって座っていて、なにやら紙を真剣に

見ていた。針井はまだ来てないようだが。

巫琴

「オッス……何見てんだ?」

「……タイト……何ってあんた」

 俺が何も知らずに尋ねたのがしゃくに触ったのか、なぜか眉にしわをよせて睨む宗谷。

だから何の紙なんだよ……

「朝、先生からこのプリント渡されたでしょ?」

「……そうだっけ?」

 最近よくプリント類をもらうので、あまり内容を読まずに机やかばんにしまうことが多く

なってしまっていた。なんだっけかとかばんを開けてそのプリントを探そうとしたが、

「もういいわよ、これ見なさい!」

 宗谷が持っているプリントを突き出され、そちらに目をやる。

 経 費 削 減 の た め の ク ラ ブ 数 削 減 の お 知 ら せ

                    ――(中略)――

 ――つきまして、来年度から部員5人未満(ただし、かけもちの場合は0.5人と数える)

 のクラブは廃部(同好会)とし、部室・部費は与えられないものとする

 これに意見のあるものは――』

「……ああ、そりゃコレだけクラブが増えたら、こういう処置も必要になってくるだろうなぁ」

「何のんびり言ってんのよ、ココだってヤバイんじゃない!」

 宗谷に怒鳴られて……そこでやっと気づく。そうだ、ここのバンドクラブって4人……

部長は卒業したし、針井はかけもちだから2.5人なんだ、このままじゃ廃部じゃん……って、

「そんなにマズいか?別にバンドなんかどこでも出来るし、来年度の新入生増えりゃまた

 部室や部費も返ってくるんだろ?」

 と楽観的な意見を言ってみる。宗谷が変わってくれたから、部員の勧誘もしやすくなると

思ってのことだったが……宗谷はそれを許さなかった。

「バンドができるできないはいいの、先輩たちが続けてきたこのバンドクラブ、

 あたいたちの代で一瞬でも途切れさせるって、悔しくないの?!」

 ……俺は宗谷は、針井についていってバンドを習ったものと思っていたのだが、それだけでは

なかったのか。まあ考えを改めただけかもしれないが、この宗谷の考えには俺も共感できる。

「そうだな……せめてあと1年は続けたいよな」

「1年というか、ずっとあってほしいんだけど……とにかく、終業式までに部員を増やさないと」

「てことは、やっぱビラ作ってくばるのか?」

「わいも手伝ったるでぇ」

 突然大阪弁が聞こえてきたので扉の方を振り返ると、予想していた通り部長の姿が。

でも卒業したはずなのにまだ制服着てたり……?

「部長、なんで……」

「ああ、大学合格したことを担任のセンセに伝えに来てな」

「えっ合格したんですか、おめでとうございます」

「おうおおきに……それはええんや、えらいことになっとるな」

 部長(正しくはもう部長ではないのだが)も話だけは聞いていたらしく、改めて例のプリントを

見て、うーんとうなる。

「よりによってこの時期になぁ、もちっと早かったらよかったんやけど」

「やっぱりビラ作って地道にがんばるしか……」

「そや、それに早よせな。他のクラブも必死になってるやろうし」

 そうだ、人数すくないのはここだけの話じゃなかったんだ。みんな好き勝手にクラブ作るから

こんなことになってるのに……ここは昔からあったクラブなだけに被害を受けてる側だぞ。

……虚しいことには変わりないが。

「それにしても、こういうときに限って針井はどこに行ってるんだ」

 よく考えてみれば、あいつにビラを渡されてここに入ったようなもんだ。何かしらあいつには

そういう特技(?)があるんじゃないか?少なくとも女子部員は引っ張れそうだが(笑)

「シャノンは……多分もう一つのクラブよ」

 宗谷がポツリと言った。いつもシャノンシャノンだったから、珍しく久しぶりに宗谷の口から

聞いた言葉のような気がした。

「ここに来る前に会ったんだけど、そっちの方も人数足りないからって……」

 そうなのか……でも足りないのはこっちもだ、こっちにも顔を見せてもいいだろうに……

ひょっとして、向こうの方が大事だと思ってるのだろうか、こっちよりも……

「とにかく善は急げやで、3人でも早速取り掛かろうや」

 元部長の言葉で、とりあえず行動を始める。でも俺は針井の奴が出てこないのにちょっと

苛立ち――宗谷のほうを見た。宗谷もなんか元気なさそうな顔をしながらビラの下絵を

描きながら……ちらっと俺のほうを見て、俺よりも早く目を反らした。


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