楽しいだろうが、俺の学校はご丁寧にも休み明けに定期テストを用意してやがる。これが
クラブ推進のしわ寄せか?ちなみに今年の修学旅行は冬にスキー合宿とのウワサだが。
だからって勉強する気も起こらず――遅い朝食の後、ぼーっとテレビを見ていた。
あのやまふじあいこが主演のドラマの再放送。元々ドラマに興味ない俺に面白いとかは
出てこないけどな……
プルルルル、プルルルル……
家の電話が鳴った。携帯を持っているので家の番号はあまり教えていない。のでかかって
くるのは家族か、親しい友人、そして勧誘の類のいずれかだ。今回は2番目のようである。
『もしもしテツ?佑馬だけど』
「ああ、何か用か?」
『テスト勉強はかどってるか?』
「まあ、ぼちぼち……」
本当は全然やってないのに。やっても大して変わらんと思っているからだろうが。
『今日七希菜んちで一緒に勉強しようと思ってんだけどテツも来ないか?手作りお菓子が
出るらしいゾ♪』
やる気のない俺でも勉強は一人でやったほうがはかどると考えているのだが……ここで断ると
七希菜ちゃんの料理を否定するようで佑馬が怒るかもしれん。確かに彼女の料理は美味いしな。
「じゃあ俺も行くよ」
『それから良かったら、テツも「彼女」連れてこいよ(笑)』
彼女……ってのは瞳由ちゃんのことだろうが、そういう関係じゃないぞ、今のところは(ぉ
それに「も」って、お前らもそこまでいってねえじゃねぇか。
「ま……一応誘ってみるよ」
『よし、じゃまた後で』
「千代川さんの家で勉強会?」
さすが(?)瞳由ちゃん、真面目に勉強していたらしい。この時期は一般的に女子の方が勤勉に
思えるのだが、社会で働いているのは男が多いというのは矛盾だ。最近はそうでもないがな。
「一人でやるほうがいいなら、別にいいんだけど……」
「ううん、やっぱりみんなでやったほうが楽しいよ。お言葉に甘えまーす♪」
七希菜ちゃんの家まではチャリで飛ばせば10分ほどでつくが、瞳由ちゃんはチャリをこっちに
持ってきてないようだ。なので徒歩だが、こっちの方が彼女と会話ができる。
「アートクラブどうだった?」
「うん、良かったよ、先輩も丁寧に教えてくれるし」
「絵の描き方?」
「影のつけ方とかね、テツ君のバンドクラブは?」
「なんか……まずまずかな」
本当のこと(みんなやる気なさげ)を言いたかったが、バンドは彼女が薦めてくれたので
否定もできなかった。
「なんかバンドネームとか決めさされたな、俺はLED(レッド)だけど」
「え、れつど……?」
「え……」
思いもよらぬ聞き間違いで赤面する二人。一文字違い(つーか大文字と小文字の違い)なんて
気づかなかったぞ……このままでは彼女の苗字からとったみたいでかなり恥ずいではないか。
「い、いや……レッドだよ、赤色のレッド」
本当はREDじゃないのだが、詳しく言うにはマニアックなのでこれでいいか。
「そ、そうだよね、ゴメン……」
……なんか気まずい、というか喋りづらい雰囲気になってしまった。七希菜ちゃんの家まで
まだかなりの道のりはある。だが会話は止まってしまっている。
「……千代川さんって」
先に話し出したのは瞳由ちゃんの方だった。こういう状況では俺からは絶対に喋り出せない。
「たまに学年トップで表彰される娘だよね」
定期テストで結果のいい人が賞状を貰え、トップは皆の前で表彰される。俺はあれは結構
恥ずいと思うのだが、俺にはそんな機会がないからいいんだけどな。
「ああ、中学校からの知り合いで、まあ佑馬の紹介なんだけど」
「彼女が好きな彼ね」
「よく言う『腐れ縁』で高校も同じになったんだけど」
なんとか話をそらすことはできたな、ちょっと一安心。でも誤解のままだったらどうなってた
だろうな、嫌われてたらそのときの反応は……って、そうだったらこの誘いも断るか。
やっと七希菜ちゃんの家の近くまでやってきた。この恥ずさ、絶対佑馬に振ってやる。