ある日の放課後。俺は早く教室を出て行って、下駄箱の前で待っていた。他の生徒たちが

通っていく中、目当ての人影を探す。そして、その人物がやってきた。俺はもたれかかっていた

下駄箱から身を起こす。

「佑馬……」

 俺の姿に目を留めて、そいつ――佑馬も立ち止まる。驚いてるとも、笑ってるのでもない

顔だった。多分、今の俺と同じ表情をしているのだろう。

「大事な話がある」

「……僕も」

 いつもの佑馬ではない、大人びた感じがした。それだけに、あのことを言うのがさらに

辛くなってくる。

「テツに話したいことがあったんだ」

 

 一応誰もいない所でということで、屋上に来ていた。全く誰も来ないわけではないが、

今は俺と佑馬しかいない。

「……七希菜のことだろ」

 佑馬から切り出したので俺の方がビクッとしたが、冷静を保つ。佑馬は知っていたのか……?

「僕だってうすうす気づいてたよ、僕と一緒にいるとき、なんかよそよそしかったし、

 テツを見る目が違って見えたし……」

 俺が思っているより佑馬は鈍感じゃなかったらしい。さすがにいつも一緒にいたからだろうか。

「それでも信じたくなかったし、疑いたくも無かったから気づかない振りをしてたんだ。

 それなのに……この前、テツと七希菜が抱き――」

 そこまで言って堪えられず、言葉を詰まらせる佑馬。あのとき、俺が七希菜ちゃんに

告白されたとき見られていたのか……だったら、俺が言おうとしていることは全部知って

いるのだろう。七希菜ちゃんのことを諦めること。俺に彼女を任せてもらうこと……

「……ずるいよなテツは。七希菜にほとんど何もしてあげてないっていうのに……」

「佑馬……何かしてもらえるから好きになるってものだけじゃない」

 確かに俺は、七希菜ちゃんから世話されっぱなしの方が多く、お返しほどのことをした

覚えはない。それは七希菜ちゃんが人に尽くすのが好きで、見返りを求めないと知って

いたから。昔お返しをしようとして、困った表情をされたのを覚えている。でもそろそろ、

彼女も尽くされてもいいんじゃないだろうか。そして俺は、彼女に尽くせる自信がある。

佑馬は……それができるとは思えない。いつも自分中心だったから。

「お前が言ってもな……でもテツの方が正しいんだろうな……七希菜はテツを選んだわけだから」

 佑馬の言葉は、いつになく暗かった。失恋するとこうなるものなのだろうか。それとも、

相手が親友と思っていた俺だったからだろうか。

「俺は七希菜ちゃんを大事にする。……潔く諦めてくれないか」

「諦めるも何も……七希菜が僕を見てないんじゃどうしようもないでしょ……」

 ……駄目だ、これじゃ今後佑馬と一切話が出来なくなる……やっぱり今後も友達で3人仲良く、

なんてことは無理なんだろうか……

「佑馬、俺は……」

「……ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 突然割り込んできたのは、涙を流して駆け寄ってくる七希菜ちゃん……俺も佑馬も呆然と

している。ここで話をつけてから、改めて七希菜ちゃんと会わせようと思っていたのだが、

我慢できずにここまで来たのだろう。必死になって階段を上ってきたからか、息も絶え絶えだ。

だが2人とも見ているしかなかった。

七希菜 & 佑馬

「……佑馬……君、裏切るつもりじゃなかったの、でも……自分の気持ちにも嘘がつけなかった」

 彼女の一言一言に、佑馬が反応し、震えだす。怒っているのか泣いているのか。

「私のせいで2人の仲、滅茶苦茶にしてごめんね……! でもテツ君を非難しないで、

 私が悪いんだから……」

 俺は今にも、七希菜ちゃんを抱きしめたいほど胸が苦しくなった。だが佑馬の前でそれを

するのははばかられる。

「僕は……」

 佑馬は顔をあげた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていたが、笑いはしなかった。

俺も泣いていたのだ。哀しいからではなく、目の前の親友と共鳴して。今までで初めて、

3人で泣いている状況である。これは本当の友情がさせたことではと思うくらいだった。

「七希菜を……非難できるわけがないじゃないか……もちろん、テツも……」

「ゆ、ま……」

「佑馬くん……っ」

 3人で大声で泣いた。俺は泣きながらも、これでよかったんだと思った。今回のことで、

3人の絆はより深まったんだなと感じた。……俺が言うガラじゃないんだけどな。


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