一番


「……時間切れだな」

「…………」

 終業式の日の5時、部がなくなる期限まで粘ったが、結局誰一人バンドクラブに入ろうと

してくれる生徒はおらず――今をもって廃部が決まった。今俺と宗谷は運動場への階段に

腰掛けて夕日を眺めている。手前には、俺たちの部室だったプレハブが。

「悔しい、のか?」

「……当たり前じゃない」

 そう言う宗谷だが哀しそうな表情をみせず、ただぼーっと夕日の方を見ている。俺も宗谷の

顔から夕日へと視線を戻した。

「針井の奴は、どうなったんだろうな」

「さあ……その話してないから」

「あいつが辞めてたら、宗谷も辞める?」

 一応同好会としては活動はできる。といっても普通は屋内でやるバンドなのだが、

部室も無しで何ができるのだろうか。

「あたいまで辞めたら、あんた一人になるでしょ」

「そりゃ一人じゃあな……お前が辞めなかったら俺も残るけど」

「2人で?あたいと?」

 宗谷は半ば呆れたように笑おうとしたが、俺の(多分)真面目な横顔を見て表情を変える。

「2人なら、多少はバンドにもなるだろ」

「……あたいなんかとでも、いいわけ?」

「なんかなんて言うなよ、お前の方が上手いくせに」

 と言いながらも、そういう意味で言われたのではないこともわかっていた。宗谷は、そりゃ

短気だしすぐ手が出たりそばにいていいことはあんまりないけど、俺にはこのくらいが

ちょうどいい気がした。もちろん尻を敷かれたいということではなく、対等な関係で。

「あんた、やっぱり変わってるわよね……」

 気づけば宗谷はこちらを見ていた。夕日が当たってまぶしくて見づらかったが。

「あたいも悪い気がしないのは、なんでだろ……」

「そりゃ、俺のことが好きなんじゃないの?」

 ちょっとからかったように言ってみたが、結構恥ずかしい言動だった。顔が赤くなっても

夕日のお陰でわからないのが救いだが。

「……ばかね、あんたはシャノンと比べたら、大したことないわよ」

 やっぱり針井なのか……?俺たちを見捨てるようなマネをしても。いや、宗谷は信じるん

だよな、あいつも残ってくれるんだって。宗谷は……照れくさそうに視線をはずして

「あんたは2番目に――好きよ」

「…………」

 針井が1番、か。でも2番目があることだけでも宗谷は変わったと思う。昔なら針井しか

見えてなかっただろうからな。

「でもほら……いざ付き合うようになったら、一番好きな相手より2番目くらいとの方が

 うまくいくって言わないか?」

「それは……そんなのは2番目の言い訳じゃない」

「そうかもな。でも俺は……一番かもしれない」

 俺は自然と宗谷の手に触れた。驚いて俺の方を振り向く宗谷。

「俺は、お前のことが一番好きなんだろう」

 まだ確信して言えるわけではないのだが、考えても一番に出てくる異性は宗谷だった。

初めは男みたいな奴だと思ってたはずなのにな。

「……そ、それじゃあ、付き合ってもうまくいかないわよね……」

「……さっきと言ってること違うぞ」

「あんただって……テツだって」

 今初めて、宗谷が俺の名前を呼んでくれたような気がした。俺への気持ちが変わってくれたと

いうことだろうか。そして、俺も名前で呼ぶべきだろうか。

「……み」

「ここにいたのか」

 言おうとした時に後ろから声がして言葉を飲み込む。声で誰かわかっていた。

「シャノン……」

 宗谷も――巫琴も振り返った。名前を呼ぶタイミングを逸してしまったけどな……

「針井……バンドクラブは」

「辞めてない。向こうのクラブは一人見つかったから」

 オカルトクラブ、見つかったのかよ……呪って無理矢理入部させ、なんて事はないと思うけど。

「バンドクラブじゃないわよ、バンド同好会よ……」

 巫琴が寂しそうにつぶやく。針井が残っても廃部は変わらないんだよな……

「いや、バンドクラブだ」

「「……え?」」

 針井の言葉に、俺と巫琴同時に疑問符が浮かび、針井を見た。

「3人ほど、入部させてきた」

「!? マジかよ……?」

 針井の言った3人は俺は知らない生徒ばかりだったが、他のクラブにも入っていない

らしいので針井の半人分を合わせても5.5人。部は存続……

「ほ、ほら、シャノンを信じてたから、よかったでしょ」

「巫琴も予想もしないほどの結果だったけどな」

「……巫琴?」

 針井が口にして思わずギクリとする。俺も考えもせず名前で呼んでしまったのだ。

針井も呼んだことがないだろう名前をな……

「バ、バカ、シャノンの前で……」

「な、なんだよ、2人きりならいいのかよ」

「……知らないっ」

 いつもならここで手が出ると構えていたのだが、今の巫琴はかわいくすねたように向こうを

向いた。たまに見るこういう巫琴もかわいいよな……

「…………」

 針井が俺たちの関係に気づいたか呆れたような表情を見せる。こいつらとももう一年、

一緒にバンドができるようになったのはやっぱり嬉しいことだ。まあこれからは、俺も新部員に

教える立場になるかもしれないが、俺見たくやる気が出るほどになって欲しいよな。

……俺がやる気が出たのは巫琴のお陰なんだよな。今改めて宗谷を見る。やっぱりそっぽを

向いているが、口の端が上がっているのが見えた。俺も自然と笑っていた。

巫琴

〜宗谷 巫琴 編 Fin〜


あとがき

泡:一番ラストに迷った巫琴の話ですが

巫:最終話ってのに一話分あるわよねぇ、というかこの後にもう一話、最終をもってくるべき

 じゃないの?

泡:だって日程が……それにハッピーエンドのために部が存続、そのときに入部した3人って

 いうのをそのもう一話で書かなきゃいけないじゃないか。面倒(ぉ

巫:まあ1年生(次2年生)ばかりということにしておきましょ。でもあたいがシャノンから

 乗り換えるなんて……

泡:針井との接し方がデフォルトと全然違うからな。むしろテツと巫琴の方がシャノンと

 ソフィアに近いというか。てことは針井とテツって似てるのか?

巫:それは全然違うでしょ……ぶっきらぼうな所くらい?

泡:そりゃ巫琴に対してはだろうが。そういや瑠璃絵話のあとがきでも書いたが、彼女との

 からみは短かったね

巫:シャノンとあの人とはなんでもなかったってわかったからね。今となっては、その2人が

 親しくてもよかったかな?

泡:お、珍しい発言が……でもそれだと、振られた巫琴をテツが「拾う」みたいで嫌だったから。

 一応「針井もいいけど、テツの方が」って感じで。

巫:でもそれって千代川さんの話にかぶってる気が……

泡:もう一人の男性(佑馬もしくは針井)が、ヒロインをどれだけ思っているかどうかの差だな。

 両ペアともデフォルトでは同じ話に出てくるんだよな

巫:Super-Abilityね、この小説に出てくるマンガとは別の話だろうけど(^^;


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