Hold You Tight


 ……あれから、彼女に何も言えないまま、もう4月になろうとしていた。壁一つ向こうに

彼女がいるはずなのに、声がかけられない。いっそのこと彼女から来てくれたなら、今度こそ

言い過ぎたと謝って仲直りしようと思ってるのに……彼女の方も同じことを考えているかも

しれない。あるいは、また俺に怒鳴られると思ってるから顔が合わせられないとか……

 

 気分転換に(というかやりたいから)ゲーセンにビーマニしてきたのだが調子も出ず……

早めにマンションへ帰ってきた。エレベーターに入る。……そういえば彼女のことを初めて

知ったのも、1年前にこのエレベーターに乗ろうとしたときなんだよな。閉まろうとした時

待ってって言って――もしかしてどっかで待ち構えてて、俺が乗ってきたときに……

やめよう、こんなことを考えるのは。もう俺は彼女を許してるんだ、多分……エレベーターが

4階についた。扉が開く。

「……!」

「……あ……」

 目の前に彼女がいた。エレベーターを待っていたのだ。彼女も予想だにしなかったように

驚いている表情だが。俺は何か言わなければ、と思ったのだが、いきなりのことで声が出ない。

彼女に近づこうとエレベーターを降りると、彼女は俺を避けるようにしてエレベーターへ……

「ちょ、待てよ……」

 振り向いて声をかけた彼女は、人形のように無表情だった。だが無理して表情を見せまいと

してるようにも見えた。

「……親のところに戻ることにしたんです」

 親のところって……ここを離れるってことか?それじゃ……隣じゃなくなるんじゃないのか?!

「私なりにけじめをつけないといけないから……テツ君には迷惑をかけちゃったから」

 迷惑だなんて……俺の方が迷惑かけっぱなしじゃないか、俺が熱出した時もいろいろ世話

してくれたし、勉強一緒にしたときも足引っ張ってばっかだったし……でもそれがなぜか

言葉として出せない。

「今までゴメンね……また学校で会うかもしれないけど、そのときは気遣わなくていいから……」

「な、なんで……」

 やっとしぼりだした言葉は、情けない声だった。

「なんでそこまでするんだよ……」

 しかしエレベーターは閉まろうとしていた。途中で止めようとも考えられなかった。

スローモーションのように閉まっていく中で、彼女が顔をあげた。俺が嫌いと言った日の、

電車のドアの時と同じように。涙を流しながら――違っていたのは、笑っていたことだった。

無理に笑顔を作りながら、口を開いた。

「テツ君に嫌われたくないから……」

 そして、扉が閉まった――――…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんで……?」

 俺は彼女を……瞳由ちゃんを思い切り抱きしめていた。エレベーターが1階に着くよりも早く、

階段を転がるようにして降りてきたのだ。そして扉が開くと同時に中へと飛び込んで……

実際転んでどこか打ったり血が出てたりしているかもしれないが、何も感じなかった。

彼女のぬくもり以外は。

「なんで、私なんか……」

 俺の胸辺りで、涙声で瞳由ちゃんが尋ねる。そのひとつひとつの言葉が、とてもいとおしい。

俺は抱いてる腕をさらにきつく締めて、震える声で応える。

「ごめん……ごめんな、あんなこと言って……」

 今初めて、あの時の言葉を謝ることが出来た。彼女は遊びで俺を誘ったのではない。

真剣だったから、どうしても俺に振り向いてほしかったのだ。今やっと気づいたんだ。

あの時にそれに気付いていれば、彼女をこんなに悲しめさせることはなかったのに……

「俺が瞳由ちゃんのこと、嫌いになるわけないじゃないか……」

 みっともないところを見せたくなかったが、俺も泣いている。だが泣ける自分が嬉しかった。

瞳由ちゃんの同じ気持ちを分かちあえるのを。

「好きだよ、瞳由ちゃん……」

「テ、ツ、くん……」

 

 二人は、キスした…………

瞳由


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