初登校


 ピピピピピ、ピピピピピ……

(…………うるさい、つーか朝か。)

 とりあえず目覚し時計を止めるため――――起き上がる。俺はすぐ目が冴える方ではないので、

二度寝しないように目覚し時計を遠くに置いておく。例えばテレビの上。ついでにテレビの

ニュースでもつければ声が聞こえるので眠れなくて済む。どうやって起きるかではなく、

どうやって眠らないか、だ。それでもたまには二度寝して、遅刻しちゃったりするのだが(汗)

とりあえず今日は大丈夫のようだ。

『――今日は、全国の高等学校で始業式が――』

「んなこたわかってるって」

 フライパンで目玉焼きを作りながら、後ろのテレビにつぶやいた。どうせ毎朝目玉焼きだが。

隣のトースターも毎朝働いている。昼は学食かパンで、夕食は野菜炒め。夜食用に麺類も

ストックされてるが休日に食っちゃうことが多い。もっとも、春休みの間は昼まで寝てたから

朝昼兼用のブランチ(笑)だったけど。妹からは『栄養足りてるの?』と言われるけどこれで

1年もったんだからいけるでしょ。まあ学食はバランス考えてあるだろうし。作ろうと思えば

豪勢なのも作れるだろうけど、あいにく学生には金が無い。

 飯を食う前に新聞を取ってくる。新聞を読みながら飯を食うのは行儀が悪いだろうけど

どうせ一人だしOK、と。子供のころなんで親はあんなに毎朝新聞を読むんだろう、

と思っていたが、何となくわかったような気がする。いや、自分でも理由はわからんが(ぉ

しかも俺はテレビ番組欄から見るし。

「……野球め」

 野球が嫌いなわけではないが、好きな番組がつぶされるのはかなわん。野球専用の

チャンネルでも用意すれば良いのに。でも最大6チャンネルは多いか。しかも試合やってない

時間や日はずっと砂嵐ってか。

(……またいらんことを考えてしまったな……さっさと行こう。)

 食器を洗って、歯を磨く。朝食を食う前に磨く人多いみたいだけど、あんま意味無いんじゃ

ないか?食後の方が大事だろ。つっても学校まで歯磨きセット持っていって昼食後に、までは

やる気にならねえけどな、一部の女子はしてるようだが。

 あとは制服。男子はブレザー、女子はセーラー。中学の学ランの詰襟から解放された気分だ。

別に俺はセンスなんかは気にしないけどな。逆にセンスが無いとも言われたが。

 テレビも照明も消して、かばんを持つ。どんなかばんでもいいんだけど、みんな普通の

学生かばん(平たくて手提げのやつ)持ってくるから、俺も合わしてんだけど。なんか

人気女優の学校ドラマが流行ったとかなんとか。まあ流行だし。一応中を見て持ち物をチェック

するが、どうせ授業ないし教科書はこれから買うんだし空に近い状態だ。……と、

財布も中身も問題ないな?

 全て確認して、ようやく部屋を出る。鍵をかけて、振り向くと隣の扉が目に入る。

そこで今日初めて昨日の彼女のことを思い出す。

(列戸 瞳由……だったっけ?高校一緒なのか……?)

 マンションに近い高校と言えば、確かに俺の通う私立高校だが、同級生にいただろうか。

他のクラスの生徒のことはほとんど知らないし、あるいは今年入学か。上級生ってことは

無いと思うが……まあ今日わかるだろう。もう誰もいないであろう部屋から目をそむけ、

通学路へと足を進めた。

 

 どうせ5分少々と短い距離だが、一箇所交差点で長い信号待ちとなる。大体ここで同校の

生徒が溜まるのだが、この時間だと高確率であいつがやってくる。

「やー、テツおはよっ」

 ほらやっぱり来た。中学からの友人、まあ親友とまではいかないけどよく遊ぶ仲間の、

名倉 佑馬(なぐら ゆま)だ。隣にはやはり同じ中学からの千代川 七希菜(ちよがわ なきな)

ちゃんもいる。彼女は可愛いからクラスの男たちの人気の的だ。茶パツでロングだけど

染めたりしてるんじゃなくて地毛だ。そんなことするような娘じゃないし。つーか佑馬が一番

ゾッコンでよく登下校一緒なのを見たことがある。まあ七希菜ちゃんも嫌そうでもないしな。

佑馬 & 七希菜

「おはようタイト君」

「お二人ともはよ」

 彼女もあいさつしたので2人分まとめて返事しておく。信号はまだ赤のままだ。

「休み何してた?」

 お約束の質問を佑馬がしてくる。そして俺もお約束の答えを。

「別に、ゴロゴロしてただけ」

「僕も」

 2人してニヤリとする。怪。なので彼女にも振ってみる。

「七希菜ちゃんは?」

「わたしはお部屋の掃除と……読書を」

「ホント本好き……あぃゃ……」

 素でつまらん事を言ってしまった。まあいつものことなので2人ともわかってくれて

いるだろうが。ここでようやく信号が青に。歩道を渡ればもう校門も見えてくる。

2年目に見る桜は、やけに白いように感じた。


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