何かを読んでいるように見える。この光景は1年のときにも何度か見かけたような気が……
そうか、アートクラブが定期的に出してる本だな、本つっても同人誌なんかよりももっと適当に
作ってるんだけど。実は俺も見たことがあるのだが、いきなり親父のマンガのキャラが描かれて
たので、それから見るのがある意味怖くなってしまった。親父の絵は女性ウケするんだよな。
まあチャイムが鳴って先生が来ると生徒たちも自分の席に戻り、その冊子は教卓の中に
仕舞われる、と。
「テツ君」
3時間目終了後。もう例の冊子に群がる生徒はいなくなり、冊子は教卓の中。それを瞳由
ちゃんが手にとり、こちらにやってきた。そういえば彼女もアートクラブだったな。
「これ読んだ?」
「いや……もしかして瞳由ちゃん描いてたり?」
俺が訊ねると、照れくさそうに髪の毛を触る瞳由ちゃん。
「新入部員だから、紹介の所だけだけどね」
言いつつ本を渡される。表紙はよくわからんキャラだが……なんかのマンガのだろう。
嫌な予感がするが……とりあえず表紙を開いてみる――いきなり出やがった、親父のキャラ。
"Super-Ability"のイエナ=セレンジェだ。……って親父のマンガ知らん奴には誰だかわかんない
だろうが。この本ではかなりデフォルメ、むしろアレンジされてる。名前を書いているので
なんとなくそうだろう、と思えるくらいだ。こんなもんなら、俺の方が上手いがな、って当然か。
「どうしたの?」
しらけた顔に気づいたか、不思議そうに言う瞳由ちゃん。
「……何でもない」
パラパラとめくってみたが、アニメやゲームのキャラばかり。知らないものもあるが、
オリジナルということは無いだろう。それにそうなら「オリジナルです(^^;」とか書いて
あるだろうし。
「あ、ここから新入部員の自己紹介ね」
瞳由ちゃんの解説とともに次のページをめくる。実名ではなく、ペンネームを書いてある。
そこまでしなくても……と思うのだが。書いてある文字はなんとなく女の子の文字だから、
やっぱり部員の割合も大きいのだろうか。でも「同性より異性を描くほうが上手い」という
法則があるらしいので、女性キャラも結構描かれているのを見ると、案外男子もいるのかも。
「でもこれじゃ、瞳由ちゃんどれかわからないけど……」
振り返って言うと、冊子に手を伸ばしてページをめくる彼女。そしてあるページを指して
「これが私」
ペンネームは「まいるど(MAERD)」。"MILD"じゃないかときくと、"DREAM"を逆に綴ったもの
とのこと。「夢」の反対は……「めゆ」、な。誕生日とか血液型とか、よくある紹介文が
書かれてあるのだが、一番下に自身が描いたイラストがある。が、その絵は……
「……なあ」
「はい?」
「これ……瞳由ちゃんが描いたんだよな」
俺が指差した先には、少年の絵が描かれていた。ボサボサの髪にちょっとふてくされた顔つきの
キャラが、自転車に乗っていた。ちょっと複雑な所は苦手なようだが、さすがクラブに入るほど
絵を描くのが好きだというのはわかる。それはいいのだが……
「どっかで見たことあるような気がするんだけど……俺、じゃないよな?」
中学の美術の時間に自画像の課題を出されて、できるだけマンガぽくならないように励むのだが
やっぱりちょっとはいってしまう。彼女が描いたキャラは、そんな絵にかなり近かった。
「そうかなぁ?」
しかし瞳由ちゃんは否定的な返事。
「それに彼は、私が中学生くらい?その頃から描いてたからね」
俺がモデルでないということか。……別に期待してたわけじゃないぞ。そりゃそうだったら
うれしいけど、その分俺はマンガに適した顔・性格、と思われてるということだからな。
でもこのキャラの名前の「ライト」って、タイトに近いような……しかもB.N.(DJ N.?)の
「LED」と繋げれば「L.E.D.Light」だし……いやそれは偶然だろうが。彼女はビーマニやらんし。
そこで4時間目開始のチャイムが。冊子は彼女が元の場所に返してくれた。あまり得意でない
英語が始まり、ちゃんと先生の話を聞いていようと思うのだが、彼女のキャラが頭から離れない。
「自分がオリジナルで創ったキャラにそっくりな人には興味を引かれる」とは親父の弁だが
(「人」のほとんどは「女性」に置き換わる)、逆なら逆で気になる所だよな。それで彼女も
親父と同じような考えで俺を気にしててくれたら……でも否定されたし。寂し。