出られぬ


 試験もいくつか済んで、休日をはさんでまた試験。今日がその休日で、前の定期テストのように

佑馬たちと勉強会でもやろうか、とも予定していたのだが……あいにくの雨。まだ梅雨は終わって

ないらしいからな……さすがに濡れてまで七希菜ちゃんの家とかに集まる気力もなく。まあ俺は

一人でやるほうが集中できるんだけどな。

 ピンポーン

 だからってすぐに勉強できるはずもなく、いつ始めようかと考えながらゴロゴロしてると

チャイム。雨の日なのによく来るよ、一体誰だ……?

「テツ君こんにちは」

「あ、瞳由ちゃん、どうした――」

 そういや瞳由ちゃんとも約束して、『雨だったら中止かな』とか言ってたけど……彼女は

手さげかばんを持っているが、ちらっと勉強道具が見えた。

「あー……雨だから勉強会は」

「二人で勉強会しない?」

 その手があったか……じゃなくて、思いもよらぬ提案で返事が出ない。だって、てことは

男友達いなくて女の子を部屋に入れるってのは(妹を除いて)初めてだし、また瞳由ちゃんも

なんで俺と勉強したいと思ったんだ?前のテストだって彼女の方が結果が良かったし(ちなみに

七希菜ちゃんはトップタイとか。佑馬は俺の下だったけど(笑))、そりゃ数学は教えた方だった

けどさ……

「……ダメ、かな?」

「あ、いや……ちょっと待って」

 今までにもまして集中できそうになかったので冷静に考えれば断わった方がよかったのかも

しれないが、俺が真っ先に考えたのは、恥ずかしくないように部屋を片付けることだった。

洗濯物とかマンガとか(当然だが親父のは無い)。適当に寄せておくだけなのだが、雨が降って

いるので彼女を長い時間外で待たせておくわけにもいかないし。

「ふいぃ、どうぞ……」

「おじゃまします♪」

 わざわざ靴の方向を直す彼女。なんか自分の家でもやってそうだな……やっぱり女の子は

そういうふうにしつけられるもんなんだろうか。男も必要だとは思うんだけど少ないよな。

「あれ……勉強やってなかったの?」

「え?あ、まぁ……」

 片付けたせいもあるのだが、机の上に勉強道具もなにもないから察したんだろう。

ゴロゴロして遊んでて、余裕ねとか呆れられる、と思いきや……

「もしかして昨日は徹夜で、まだ寝てたとか」

「いやそれはさすがに……片付ける必要ないだろ」

「そうだね(^^;」

 お互い正面を向いて勉強開始。明日は数学II・地歴・化学。地歴は別々だから、残りの2つを

一緒に勉強するのだが、奇しくもお互いが得意なものを一つずつという時間割だ。まずは俺が

数学を教えることに。

「『y=log2(2/x+3) は、y=log2x をx軸・y軸にどれだけ平行移動させた 関数か』っていう問題、

 今だにグラフ描いてみないと自信ないのよね」

「ああ、それはxの係数を外に出すんだよ、y=log2(x+6)/2 って。で、それはイコール y=log2(x+6)-1、

 y-(-1)=log2(x-(-6))の形にすれば」

「そっか、『x軸方向に-6、y軸方向に-1』ね。って授業で習ったのにネ」

 式の変形は計算慣れしてないと嫌になって敬遠しがちになるらしいから仕方ないとは思うが、

彼女もそうだとは意外。まあ他の教科が、特に化学はもう少しで満点だったくらいだから

あまり偉そうなことが言えない。

瞳由

「付加反応、付加反応、付加反応……」

「丸暗記じゃ駄目だよ、他の形の問題もたくさんやらなきゃ。それにそこ、置換反応よ(^^;」

「え、マジ?」

 

 休憩をはさんで6時前まで結局やっていたが、正味の話、集中して勉強できたのかどうか

わかったもんじゃない。瞳由ちゃんが目の前にいるもんだから、やっぱ気になって勉強したことが

ちゃんと入っているかわからなかったが、やってる間は楽しく勉強できたような気がする。

「明日は頑張ろうね♪」

「ああ、そいじゃ」

 夕飯ということで部屋を出た瞳由ちゃん。向こうは俺と同じ気持ちは無いんだろうか……

自分から勉強しようって言ってきたもんな、俺を信頼してくれてるか、そういう対象として

見てないか。できれば前者だと嬉しいのだが。

 まだ雨は降っている。佑馬の奴なら傘差してでも七希菜ちゃんの家にいってたり?


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