試食


 補習。今やってる勉強が果たして大学入試に役に立つのか定かではないが、やらないよりは

マシか。でまあ半分寝ぼけながら昼まで頑張ったわけですが。

 

「タイト君、ちょっといい?」

 学食は開いてないので、おとなしく家に帰って作るか、と思いながら廊下を歩いていた時。

24HRの前を通った時に丁度出てきた人影に話し掛けられる。俺と親しい同級生、しかも

女子となると人物は限定される。

「ああ、七希菜ちゃん。どしたの?」

「一緒に調理室に来てくれない?」

 何かと思えば調理室て……彼女は家庭科クラブ所属だから、そりゃ料理のことだろう。

しかしいきなり……一度行ったが、あそこは女子ばっかの所で視線が痛いのだが……それに

あそこには行きづらいもう一つの理由があるんだけどな。

「……どういうこと?」

「えーと……どこか別の所で……」

 何か恥ずかしそうに言う彼女。これは……告白、なわけないよな、佑馬とつきあってんだし。

ということは、その佑馬についてだろうか。

 

「9月2日にですね、佑馬君と遊園地に行くことになってるんです」

「へぇ〜、二人きりのデートか」

 夏休みの間では無いのかと思ったが、夏休み明けの方が人数が少ないと思ったらしい。

せっかくのデートで待ち時間ばっかってのもつまらないしな。それでもここから一番近い

遊園地ってそれほど有名でもないと思うけど。

「それで、お昼にお弁当を作ってほしいって言われたんですけど……」

「贅沢な奴め……で、そこでなんで俺?七希菜ちゃんの方が料理上だろ」

「ちょっと、新しいおかずも作ってみたいと思ったんです」

 ほぅ、彼女にしては挑戦的だよな、やっぱこれも愛の力か?……もう「愛」にまで発展

するには早いと思うが。

「それで、できればタイト君に新しい料理を味見してもらいたいんだけど……」

 なるほど、味見ね……そりゃ昼飯もまだだし、七希菜ちゃんだから失敗無く美味い料理を

食わせてくれるからこちらから願ったりだな。

「やっぱり男の人と女の人の味覚は違うと思って……頼む人がタイト君しかいなかったから」

 味覚に男女の差……わかるようなわからんような。でも頼りにされてるのは悪い気がしないな。

「俺そんなに舌肥えてるわけじゃないけどいいの?まあ佑馬もそうなんだろうけど」

「ええ、お願いします。それじゃあ調理室に」

「あああちょっと」

 動こうとした七希菜ちゃんに待った。いくら上手い料理でも、状況によっては不味くなる。

「今日、今から部活でやるの?」

「はい」

「じゃ、他の女子部員も集まるとか」

「ええ、そうですね」

「……俺、居づらいんだけど」

「……そうですか?」

 一応素直に察してくれたか、苦笑いする彼女。もう一つの理由については、多分知らないの

だろう。それがなけりゃ調理室に行ってもいいのだが。

「じゃあ私の家に来てくれますか?」

「えっ、七希菜ちゃんの?でもクラブは」

「今は一人一人が自由に調理しているだけですから。それにこういうことはあまり知られない方が

 いいかもしれないですしね」

 

 で、七希菜ちゃんの家。当然というか、二人きりではなく、七希菜ちゃんの母親もいるぞ。

七希菜ちゃんとは印象は違うけど、やはり美人だ。

「佑馬君かと思ったら、タイト君だったのね。『付き合い』だしてから彼、最近よく来るのよ」

「もう、お母さん……(*^^*)」

 親も知っているようだな、それに応援してるみたいだし。幼なじみだからどこの馬の骨とか

ないし(例え下手)。ともかく彼女は母親も手伝っての新料理に挑戦。はっきり言って佑馬より

先に食すことは悪い気もするのだが、朝適当に食っただけなので腹がいい具合に減っている。

七希菜

「……美味い!」

 CMで「おいしい」「うまい」ばっか言って、他に言葉はないんかいとか言っておいて、本人が

「うまい」と言うというのがあるが、まさにそれだ。まあ弁当のおかずの域を出ないから

コックの味というわけでもないだろうし、前にも述べたが味音痴なので美味いか不味いかしか

感じられない。それでも、並みの料理よりは数段上ということはわかった。それで結局、

ごはんもよそってもらって一通りのおかずを食べてしまった。

「ごちそうさま。これだけの料理、佑馬もきっと喜んでくれるよ」

「そうだといいですね」

 七希菜ちゃんも満足そうだ。あと俺がアドバイスすることは……

「そうだ、遠足の弁当でいつもタコウインナー入ってなかったっけ?あれ母親に頼んでるって

 言ってたけど、やっぱ入れてやると喜ぶもんかな」

 俺よりも佑馬と付き合いの長い彼女ならすでに知ってることかもしれないし、そんな幼稚な

ことを、と思うかもしれないが、あいつは女の子の前では大人ぶっても、男同士本音で話すと

子供っぽいところがまだ残っている。七希菜ちゃんの母性的なところに惹かれたのに違いない。

 

 あんまり長居すると佑馬が来そうなのでおいとますることにした。それにしてもよく来るって、

何話しに来てんだ……


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