秋雨の中


 学校のあと、マンガを買いに本屋へ。ついでにゲーム雑誌を立ち読みしながら1時間ほど

時間をつぶしていた。そろそろ帰るかと目当ての本を購入、店を出ると……

「……雨かよ」

 無意味につっこんでしまったが、そのままだった。そういやちょっと曇ってたけど、降るとは

……最近の天気予報はよく外すから当てにしてなかったけど、今日に限って降らなくても……

まあチャリだし仕方ないか。俺は傘さして自転車こぐなんて迷惑かつ危険なことはしないぞ。

といってもレインコートなぞ面倒なものは用意してなく、どうしても雨の日に外出しなければ

ならないのなら徒歩で傘をさす。でも今日のようなときは、やっぱ濡れて帰るしかない。

それほど強い降りかたじゃないのが救いか。俺は滑らないように強くペダルをこいだ。

 丁度マンションまで半分ほどの道のりを走ってきたとき。道の脇からヘンな音が聞こえてきた。

思わずブレーキをかける。

「……な゙ぁー」

 ……猫、の鳴き声だよな?にしてはなんか、濁ってるっていうか、キツい声だが……気になって

チャリを降り、声のする方をのぞいてみた。

 植木の向こうの、建物の突き出てる所の隅に小さなダンボール箱が置かれていて、その中の

小さな白猫が声の主らしい。ダンボールは横に向いているので雨よけになってくれているものの、

俺を見つけたその子猫がダンボールから出てしまったから今体が濡れまくっている。

それにしても、こういうシチュエーションって本当にあるんだな……

「な゙ぁー、な゙ぁー」

 寂しがって鳴いているのか、大きな人間に怯えて鳴いているのか。その猫は痩せていて、

食べ物を与えてやらないと死んでしまうかもしれない。見捨てるには忍びないのだが、

あいにくマンション住まいなので猫を部屋に入れるわけにもいかない……

「……どうしたの?」

 ふいに後ろから人の声が。振り向くと知った顔、傘をさした瑠璃絵さんだった。

「瑠璃絵さん……ああ、コンビニのバイトだったね」

「ええ……あ、子猫」

 彼女も猫に気づき近づく。大きな生き物が2つもやってきたので子猫はダンボールに体を

ひっこめるが、鳴き声は止まず。

「捨てられたのね、かわいそうに……」

「誰か飼い手が見つかればいいんだけどな。その前に何か食べさせてやらないと」

「う〜ん……私が預かってもいいんだけど、マンションだし……」

 あいにく瑠璃絵さんもマンションか。少なくとも、猫をここから移動させなければ、空腹の前に

寒さで弱ってしまいそうだ。

「とりあえず、コンビニに連れて行きましょう」

瑠璃絵

 彼女の提案に二つ返事でのる。彼女は猫をダンボールごと持ち上げしっかりと抱えた。

しかしコンビニで飼えるなんてことは……でもミルクはあるから飲ませられるよな。

 

「こんにちは住村さん……って、その猫どうしたんですか?!」

 先にコンビニに来てた瞳由ちゃんもさすがに驚く。瑠璃絵さんが猫を連れて店の中に入って

きたからだ。動物は入れちゃいけないんだろうが……そんなことを言ってられない。

瑠璃絵さんは200mlの小さな牛乳パックを手にすると、瞳由ちゃんに突き出した。

「列戸さん、これすぐに温めて!」

「え、でも……」

「お代は私が出すから、早く!」

「は、はい!」

 瑠璃絵さんに圧倒された形でか、瞳由ちゃんは慌てて牛乳を受け取る。トレーに移しかえ、

電子レンジにて温める。業務用だから温まるのはすぐさまだった。それでもその間にいままでの

いきさつを瞳由ちゃんに話しておく。

「そうだったの……こんなにかわいいのに捨てるだなんて」

 3人が囲んで見ているのだが、そんなことはお構いなしに、ミルクを夢中になって飲んで

(舐めて)いる。やはりお腹がすいていたのだろう。とりあえず危機は脱したとして、今後

この猫をどうするかだが……

「この猫ちゃん、ここで飼えたらいいんだけど……」

「あ、そういえば店長さん、猫好きじゃなかったかな?」

「そういえば……案外あっさり許してくれるかも(^^)」

 ……なんだ、案外あっさり決まりそうだなオイ……あのとき瑠璃絵さんが通りかかって

くれなければ、この猫を見捨てるしかなかっただろうから、俺も罪悪感が残らなくて助かったな。

最近罪悪感晴れっぱなしだな(笑)。

 

 あとは2人に任せて俺は買えることに。ついでに、マンガ読む時の菓子とジュースも買って。

が、マンガは雨に濡れてしなしなになってた……読めんことはないが、何か汚ねェな……

でも瑠璃絵さんは、服が汚れるのも気にせず濡れた猫を抱いてたんだから、俺もこれくらい

がまんしなきゃな(苦笑)。


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