謎の関係


 俺たちの学校は、一直線の建物で曲がり角はなく、廊下を走ってても出会い頭に衝突なんて

ことはほとんどない。でもやっぱり曲がり角は存在するようで、それは階段と繋がっている

部分である。昼休みに食堂へダッシュで向かっていた所、女生徒らしき影と衝突してしまった。

「ひゃっ!?」

「……っと、ゴメ……」

 やはりというか向こうが一方的に倒れてしまったようで、教科書が散らばる。移動教室から

帰ってきたところだろう。そういえばこういうシチュエーションって、なんかドラマティックな

出会いとか考えてしまうものなのだが……相手は知っている顔だった。

「……なんだ益田か」

「……ちょっと、何よソレ」

 俺の態度がコロっと変わったからか、不満の声をあげる。でも俺はそれ相応だからいいと

思ってるし(謎)でも他の生徒へのイメージってのもあるので、一応教科書は拾ってやるか。

「ほらよ」

 益田は立ち上がると、何も言わずひったくるように自分の教科書を受け取った。

「じゃあな」

「待ちなさいよ」

 食堂へ向かおうとしているのに呼び止められる。無視してもよかったんだが、一度止まって

しまったので、もう一度走るにもかっこがつかず、仕方なく振り返る。何の用だ、

ちゃんと謝れってか?嫌そうにジト目で見ていると

「アンタ、あおいと仲直りしたんだってね」

 その話か……よく考えてみたら、益田が紛らわしいこと言ったからしばらく会えなかったんじゃ

ねぇか。あのこと知っただけ(「だけ」というには重すぎるが)でこいつにそこまで言われる

筋合いは無ぇし、第一こいつもあのこと知ってんじゃん。

「ああ。お前が何と言おうと俺はあおいちゃんの味方だからな」

「そうかい……」

 下を向いてため息をつく益田。やけにあっさり……?

「なぁ、俺もひとつ聞いていいか」

「……なんだい?」

 この機会に聞いておこうと思った。あおいちゃんと益田の関係を。食堂も気になるが。

「なんであおいちゃんをいじめるんだ?」

「……あのねぇ、何を聞くのかと思えば……」

「あ、悪ぃ、いつものクセでそう言っちまった……そうじゃなくて」

 頭の中で言葉を整理したあと、改めて益田に尋ねる。

「なんでそんなにいじめてるように見せるんだ?」

 あのときからいろいろ考えてみたが、益田があおいちゃんをいじめてるって見かたはどうやら

間違っているようだ。本当はあおいちゃんのためを思っての行動なのだろう。それならば益田の

性格で不器用な言い方しか出来ない、と考えればいいはずなのだが、それでは納得できなかった。

「……それに何の意味があるの?」

 何か思いつめたような表情で下を向いたまま益田がうめく。確かに俺にもメリットがあるとは

思えないのだが……例えばあおいちゃんがクラスみんなからの嫌われ者で、彼女の友達になったら

同じように思われるから、というのだったらわかるが、幸いにもそんなことはない。あおいちゃん

だって毎回キツく言われるのはいいものではないだろう。

恵理

「じゃあ質問変えるけど……」

「『ひとつ』って言わなかったっけ?」

「……あ?」

「『ひとつだけ聞く』って言ったでしょ、だからもう聞かない」

 こいつ……やっぱりひねくれてるし……多分俺がそう言ってた時点で、2つ目聞いたときに

そう言って逃げようと考えていたんだろう。

「あっそ……でもお前はあおいちゃんよりは聞きやすいから、何度でも聞くぞ」

「どういう理由よ……それにアタシはあおいのこといじめてるんだから」

 そう言って自分の教室へ走っていった。なんだそりゃ……いじめてないって言ったの益田の

ほうじゃねぇか。まあ俺もああ言ったものの、やっぱりあおいちゃんから尋ねるようになって

しまうだろうな……あんまり立ち入ったことは聞けないが、まずは益田といつ知り合ったくらい

聞いてみるか。

 

 既に食堂はいっぱい生徒がいて、並ぶのが面倒だった俺はパンを買うことにした。こっちも

人数はいたが食堂ほどではないし。どんなパンを食うか迷った結果、スイートブールを選んだ。

あおいちゃんの好きなパンだ。……ただ丸いからってわけじゃないよな。


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