問いかけ


 今日は珍しくテスト勉強に励んでいた。テレビもつけずに……というか、俺好みの番組が

無かっただけなのだが。それに勉強だって、一度コツをつかんで問題が解けだしたら、

結構面白いもんなんだよな。数学や物理は特に。それがあまり無いのが国語や英語だから、

あまりやる気が起こらないのも事実だが。

 しかし、家でじっとしていても腹は減るもので、今日の夕飯はカップラーメンで済ませた

せいか、もう腹が鳴りそうだ。夕飯はちゃんと作って、夜食をカップラーメンにすりゃ

よかったんだが、数学のやり応えのある問題を解く真っ最中だったからな……夜9時か、

コンビニでも行くかな。

 

 今日は瞳由ちゃんと瑠璃絵さんじゃなかったのか……ライト(白猫)はいたけど。まあ瞳由

ちゃんはテスト勉強優先するだろうからどちらにしろバイトは休むだろうけど。じゃあ

瑠璃絵さんは、今日は歌ってるんだろうか。……気になるな、今9時15分か。高校生は

夜10時以降外にいると補導されちまうから……まあちらっと様子見るだけ行ってみるか。

他のバイトかもしれないけど。買ったものをカゴに入れて、チャリにまたがった。

 今日も弾き語りは多いな、まあ昨日まで雨だったから外に出られなかった反動か。

そして意外にも瑠璃絵さんはすぐに見つかった。まあ髪染めてるし。どっかのグループに混じって

今日もいい声で歌ってるな。声をかけようと思ったが、少しだけど人が寄ってきているので

遠慮しよう。いつでも会えることだしな。さてもう帰るか……って、

「オイ……」

 誰かに向かって投げかけた言葉なのだが、距離があるのでその人には聞こえず、結局独り言に

なってしまう。だがそれほどあきれたということで。その人物の名は、針井社音。テスト期間

なのに、こんなところでこんな時間までギター弾いてるし。こいつ余裕なのか?それとも……

自然と足が針井の方へ近づく。向こうもこっちに気付いたらしいが、視線を合わせただけで、

すぐにギターへ戻す。針井の前まで歩いてきた。

「よく親が許すよな……」

 勘だが、俺とは違って親と一緒に暮らしているだろう。合宿の時かなり目覚めが悪かったから、

一人では起きられずに親に起こしてもらっているとか。こいつが自炊してる姿も想像できんし

(傍から見りゃ、俺もそうだが)。

「親の許しがいるものなのか?」

 ギターを弾きながらボソっと言ったのに、言葉ははっきりと聞こえてきた。こういうところで

威圧感があるんだよなコイツ……

「勉強もしないでってことだよ」

 実は俺より勉強できる、ってのなら偉そうに言えないのだが……少なくとも進学クラスじゃ

ないし。25HRだっけ?

「お前は何のために勉強してるんだ?」

 演奏を止めた針井が今度は聞いてきた。こいつ俺よりも勉強嫌いとか?この質問は小さい子供が

する質問じゃないか。でも答えられないもんなんだよな……

「まあ……大学に行くため」

「何のために大学に行くんだ?」

「そりゃ……そう、何をやるか考えるために行くんだよ」

 とりあえず妥当な答えで済ませたが、自分でも疑わしい答えだ。結局将来のことを大学生に

なってからでないと考えられないと決め付けているんだし。

「学力だけで全て決めるここの制度は嫌いだ」

「……ここって?」

「日本」

 確かにハーフの針井らしい考えだが、それじゃまるで外国の大学に行く気みたいじゃないか。

「彼女も同じ考えみたいだがな」

「彼女って……」

 思わず後ろを振り向く。さっきいた場所より遠い所にいるということは、もう既に針井の所で

歌ったということだろうか。

「……瑠璃絵さん?」

「ああ、大学行ってないと言っていたな」

 え……瑠璃絵さんが?! 「大学行っていない」というのは、「高校まで」ということだろうが

……俺ずっと大学生と思ってたし、もしかしたらそう思ってたのを彼女の前で言ってたりして……

とにかく彼女は本気で歌の道を目指しているんだ。俺が暇つぶしにバンドクラブに入ったのと

ワケが違うんだ。そして針井もそうなのかもしれない。

瑠璃絵 & 社音

「他人の決めた道に、口出しするもんじゃないだろ」

 針井はそう言うとまたギターを弾きはじめた。確かにそうかも知れんが、針井はそうやって

他人を突き放す癖があるよな、もう少し他人の意見も聞くべきだと思うのだが。

「ま、とにかく……あんまり遅くまでやるなよ」

 そう言って時計を見た。9時35分だ。腹の減りも頃合いなので、そろそろ帰るとするか。

向こうでは瑠璃絵さんがまだ歌声を披露していた。


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