聴いてみな


 今日はバンドクラブがある。先日約束した通り、音楽ゲーム、つーかビーマニのサントラを

いっぱい持ってきた。5鍵7鍵全部買っている。インターネットで譜面を紹介してるのを

見ながら、イメトレでもしようと思って買ったのだが、結局聴くだけである。勉強しながら

聴くと、ノッてしまって勉強がはかどらないという欠点もあるが、BGMとしては最適かも。

CDが入ったバッグを抱えなおして、部室へと足を進めた。

 

「ふーん……」

 ヘッドホンをした宗谷が聴き入っている。3人各自ポータブルCDプレーヤーを持ってきて、

サントラを聴いている。なので今部室はかなり静かだ。仕方がないので俺も自分のプレーヤーで

聴くか。俺の好きな曲は5鍵では super highway。階段配置なデジタルオルガンが肝な曲だ。

今俺が聴いているのは、そのlong version。アーケード版とはかなり違った印象を受けて改めて

好きな曲と思った。階段は健在で、さらに極悪だが。

 他の曲もいいのがそろっていて、聴き入っていると時間を忘れてしまう。ふと時計を見ると

既にいつもよりも長いことここにいることになっているが、3人は帰ろうとせずまだCDを

聴いている。塾とかあるんだったら言ったほうがいいかな……?

「いやー、もうこんな時間かいな」

 上久部長がヘッドホンをはずし時計を見た。まだ余裕があるような言い方だが。

「ホント、いい曲あるじゃない」

 宗谷もはずし、満足そうな表情を見せる。

「まあまあかな……」

 針井もプレーヤーを止めた。

「で、どの曲がよかった?」

 とりあえず訊ねてみると、

「わいは”R壱萬”やな、なんやラーメンが食いたくなったわ」

 ラーメンって……確かに中華だが。そういや部長ってラーメン好きそうな顔だよな、いや

どういうのがって言われたら困るけど。

「オレは……”NORTH”だ」

 CELTRANCE……アイルランドか、母親がそこの人だから、そういう曲をよく聞かされてたのか?

まあ俺も好きな曲だけど。

「エラ……? ノスタルMIX でいいの? これなんか吸い込まれそうになったね」

 ほう、era(nostalmix)とはお目が高い、ビーマーの中でも1・2を争う人気曲だからな。

しかもムービーで青い人が遠ざかっていく≒吸い込まれていくってイメージ合ってるし。

巫琴

「でも、どれもバンドに合いそうにないな……」

 針井のツッコミに一同はっとする。キーボードならともかく、ギターとかで演奏できる曲じゃ

ないのばかりだ。ボーカルも無いし。

「じゃあバンドらしいって言ったら……”DIAMOND JEALOUSY”?」

「マテ、それだけは勘弁……」

 何気なく曲名を出した宗谷を慌てて制する。聴きづらいかもしれんがこの曲の歌詞は異様だ。

貯金残高とかわけわからんし。それにボーカル男だぞ。

「ほな”Voltage”なんてどや、ドラムかっこええでえ」

 なるほど、BIG BEATなら丁度いいな、それにこの曲は「止まる」ところがカッコイイし。

普通の楽譜に起こしたら止まりゃしないけど。

「えー、でもその曲ボーカルないじゃなーいー」

 しかし宗谷のわがままで却下。いい線いってると思ったんだけどな。

「なんや、結局そんなにバンド曲多ないやんか」

 部長も呆れた口ぶり。そりゃ元々DJシミュレーションだからな、最近はそれさえも怪しいけど。

結局お開きの時間となったが、練習曲決めは持ち越しとなった。もっとも決まっても本気で

演奏してくれるかは謎だが。

「ねえ、このCD貸してくれない?」

 俺がCDを片付けようとしていると、宗谷が1つのCDを手にして頼んできた。ラベルには

”IIDX 3rd style”と書いてある。era が収録されてるやつだ。

「この”タッキュー”って人の曲いいねぇ、いいでしょ?」

「貸すのはいいけど……それ”タク”って読むんだぞ」

 どちらかといえば卓球な人の方が有名らしいが。まあ彼の曲に感銘を受けてるのなら貸すかいも

あるだろう。俺は特にひいきしてるわけでもないけど(ぉ

「ところであんた、ギターの練習ちゃんとやってる?」

「やってるもなにも……家で弾ける環境じゃないし、第一宗谷が教えるつって全然じゃねぇか」

「ま、曲決まってでいいから、下手な演奏しないでよ」

 貸してやったのにその言い草はなんだ、と言ってやろうとしたが、既に彼女は走り去って

しまった。というか針井の方へ駆け寄っているのだが。まったく……無愛想で何もせん男の

どこがいいのか……やっぱ顔なのか? って別に嫉妬(ジェラシー)してるわけじゃないのだが。


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