学力


 もう期末テストか……何が面倒かって、保健体育や家庭科のテストがあるってことだ。そっち

方面の大学に進むのならともかく、興味ない人には必要ないんじゃないか?まあ教養程度には

学んでた方がいいかも知れんが。せめて傾斜配点でないと、同じようにテス勉時間とられるのは

納得いかん。

 初日の明日は数学B・古典・Readingだ。定期テストと違って教科が2つ以上に分かれてるのは

ありがたいが、その分広く問題がでるのは痛い。数学はともかく(自信)。というわけで古典と

Readingを集中して、数学は公式の確認と……

  「てっちゃ〜ん」

 小学生以来の懐かしいあだ名を呼ばれて、誰のことを呼んでいるのか一瞬気づかなかったが、

声の主で俺のこととわかった。そして声の主は……山藤藍子……

「あれ?どしたのてっちゃん」

「……何なんだよその呼び名は」

「? よくある呼び方だと思うけど」

「そうじゃなく! ……いつからそんなに親しくなったんだよ」

 呆れた言葉を返すと、急にしょぼんとしたような顔をする彼女。……まずいこと言ったか?(汗)

「私につきまとわれるの、そんなに嫌?」

 自分でもつきまとってるってわかってるんじゃねぇか、とツッコんでみたかったが、今の表情の

彼女にそう言えるはずもなく。

「だから……荒井田が」

「もう私といなくてもケンカ売られるのは一緒よ」

 う……確かに。もう目をつけられてるからなぁ。まあ向こうがわざわざ待ち伏せとかして

ないから、今まで逃げて(ヤな言い方だが)こられたもんな。

「逆に私といた方が、とりあえずケンカは避けられるわよん」

 そうきたか……言ってることは正しいが、何か腑に落ちんぞ。しかもいつのまにか暗かった

表情はどっか行っっちまってるし。

「で、今日は何なんだよ」

「勉強教えて」

「……あ?」

「テスト勉強。1年のは楽勝でしょ?」

 俺だって勉強しなきゃならんのに、範囲外を教えろってか。だいたい彼女の方が賢そ……

そうか、芸能生活で勉強する時間がないのな。台本とか暗記は得意だとしても、それは好きな

ことだから覚えやすいんであって、勉強の暗記とは別物だろうし。だが……

「なんで俺?他の友達と一緒にやりゃいいじゃん」

「だってー、なんかみんな下心丸出しなんだもん」

 俺は下心ないってか。そりゃ芸能界には疎いよ……でもそりゃ男友達(ファン)だろ?

「じゃあ女友達とやりゃいいだろ」

「……いないよ」

「え?」

「やっぱり浮いちゃうんだよねー、私みたいなのって」

 あ……そうだよな、学校終わったらすぐ現場だから、クラスメートと遊ぶ時間なんてないから、

付き合い悪いと離れていくもんだよな……性格の悪い奴がいたらグループで無視しようとするし。

そんな子でなくても、グループに目をつけられるのが恐いんで彼女に近づこうとはしないだろう。

というドラマを見たことがあるが、実際にあるもんなんだなぁ。どこまで本当かは知らんが。

藍子

「というわけでてっちゃんしかいないから、よろしく!」

 こうやって明るく見せてるけど、本当は辛いんだろうな。でも彼女のことだから同情はされたく

ないだろうけど。それで学校にいるときは芸能人ということを忘れたいのかもしれない。

「ま、いいか。……ただし、その呼び方はやめろ」

「え〜、じゃあテッツン?テツ〜?テツテツ?」

「そうじゃなくて……つーか最後のは言いにくいだろ」

 

 結局その後は図書室で教える。といっても彼女も天然アイドルじゃないんだから、それなりの

学力はあったので、俺が教えたのは数学くらい。逆に思い出さされたこともしばしば。

「な〜んだ、そんなに賢いってわけでもなかったのねぇ」

「……悪かったな」

 確かにここならエアコンも効いてるし(教室よりやや強めだし)、荒井田も来ないだろうし

和むのだが……なんかやけに視線を感じるぞ?山藤がよく喋るからか、それともその山藤

(というか『やまふじあいこ』)と一緒に勉強してる俺に向けての視線なのか……こういうのって

やっぱウワサとかになるのか?


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