連絡


『はい、名倉ですが』

「あ、おばさん、タイトですけど」

『ああ、テツくんね、ちょっと待っててね。……佑馬〜!』

 電話に出たのは佑馬のお袋さん。中学生のときに仲のいい友達としてたまに遊びに行ったので

覚えてもらっている。ああいう優しいお袋さんを見てると、俺の母さんも優しかったのかなぁ

とか考えちゃうんだけどな……

『やぁテツ、何か用?』

 と、佑馬が電話に出たので我に返る。昔のことより今のことだ。

「ああ、夏休みのことなんだけどさ……お前、七希菜ちゃんとどこか行くか決めた?」

『え?……いや……まだだけど……』

「ったく――と言いたい所だが、今回はそっちの方が好都合」

『? どゆこと?』

「瞳由ちゃんがさ、みんなで海行こうって言ってんだけど、どうだ?」

 昨日彼女から聞いた計画は、昨日のうちに話しておこうと思っていたらしい。もう行き先も

決めてあるとか。よほど海が好きなのかな……

『海?テツ海好きじゃなかったんじゃないか?混むとかで』

「あのな……そのままじゃ俺が泳げないと思われるだろ」

 俺たちの高校にはプールもその授業もない。例えあってもマジメに泳ごうとする奴など

ほとんどいないだろうが。

『中学の時に泳いでるの見てるから……ああ、列戸さんにか』

 電話の向こうでニヤリとしている顔が容易に想像できた。そりゃそうなんだけど……それに

女の子に誘われて断われるかってんだ(本音)

「で、どうする、一緒に行こうぜ」

『そりゃ、僕はいいけど……僕から七希菜にまわそうか?』

「ああ、そうしてくれ。……しかし、なんだな」

『? なに?』

「男女4人が海……青春らしくなってきたな」

『……ぷ』

「なに笑ってんだよ」

『だってさ、テツに「青春」なんて言葉似合わないって』

「うるせ」

 佑馬の方がもっと似合わないような気もするが、先に彼女を作られた手前何も言い返せない……

『で、いつ行くことになってんの?』

「ああ、11日の土曜日にしようって瞳由ちゃんが」

『わかった、そう伝えておくよ』

 

 電話を切ってしばらくした後、電話がかかってきた。きっと佑馬が七希菜ちゃんの返事を聞いて

かけなおしてきたものだろう。

「はい、タイトですけど」

『……佑馬だけど』

「ああ、……もしかして七希菜ちゃん……?」

 応答した佑馬の声があまりにも暗かったので、期待しない返事だったのかと思ったのだが、

『OKだって』

「なんだ、じゃなんでそんなに落ち込んでんだ?」

『そうじゃなくて……妄想がちらついて……』

「……水着姿か」

 中学の水泳の授業は、完全に男女別だった上、プールは体育館の影にあったため運動場からは

死角になっていて、女子の水着姿など見ることはなかった。まあ特に見たいとは思わなかった

けどな、本当に(疑)。というわけで佑馬が最後に七希菜ちゃんの水着姿をみたのは小学校以来

なのだろう。しかしだな……

七希菜 & 佑馬

「お前、付き合いだしたのに彼女の水着姿を想像するだけで困り果てるなよ」

『だって……テツは思わないの?』

「いちいち水着姿にKOされてたら、テレビも見れんぞ」

『そうじゃなくて、身近な娘さ。列戸さんとか』

「あの……な……」

 七希菜ちゃんはもう佑馬の彼女だからまだ平常を保てるだろうけど、瞳由ちゃんは……

佑馬がいらんこと言ったので俺まで変な妄想をしてしまいそうになり、気合で振り払う。

「そんな下心もってると嫌われっぞ」

『硬派すぎるのもどうかと思うけど』

「硬派とは言わんだろ……」

 

 2人ともOKだということで、瞳由ちゃんにも知らせておく。隣なので当然電話など使わず

直に話す。

「よかった、急だったら予定あるだろうから1週間開けたんだけど」

「どうせ佑馬もヒマさ。七希菜ちゃんはどうか知らないけど」

 ……佑馬のせいで、彼女と話している間水着姿がちらついて面と向かって話せなくなったでは

ないか……俺もウブだなぁ……


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