パン


「ヤベッ、二度寝しちまった!」

 まあよくあることなんで昨日から所持品の用意はしてるから着替えりゃすぐ出られるんだが、

飯を食う時間はありそうに無い。1時間目の休み時間にパンでも買って食べとくか……

とにかく速攻で制服に着替え、荷物をろくに確認もせずに持っていく。忘れ物しても急げば

休み時間に家までとって来れるし。

 チャイムが鳴るまで10分も無い。といっても5分ありゃ余裕で間に合うのだが、

こういうときは焦るものである。しかも信号は目の前で赤になるし。生徒の数も少ない。

逆に言えば少しはいる、ということだけど。でも飯食ってないからかなんか鬱だ。空も

俺の気分を表しているかのようにどんよりと曇ってるし……曇って? 周りの生徒の

ほとんどが傘を持っている。今日雨降るんだっけ? 昨日の天気予報で言ってたような

なかったような……今から取りにかえるにしても、今度こそ遅刻しそうだし……とか

考えてるうちに信号は青。時間はあと6・7分だ。まあいいや、降ったら振ったで濡れて帰ろう。

俺は学校へ急ぐ。結構取り越し苦労だったりして。

 

「遅かったじゃない、今日休みかと思っちゃった」

 教室についたのは2・3分前。そういや学校に入ってから、教室までの時間を考えてなった……

危ない危ない。息があがってる俺に心配してくれた瞳由ちゃん。

「ゼェハァ……ちょっと寝過ごして……」

「夜更かしでもしてたんじゃないの?私が12時に寝たとき、外からまだテレビの音漏れてたし」

 う、図星。つーかお見通しなのね……でも12時っつーのは早いと思うのだが……

かくゆう俺は3時過ぎ。遅?

 お、チャイムだ。とりあえず返事は曖昧にしておいて自分の席に戻る。とにかく1時間目を

切り抜けねば。眠さは残るがそれ以上に腹が減って気になる。別に腹がなるのは気にしない。

生理現象なんだから仕方ないし、別にいやしいということでもない。それにしても俺以外で

腹が鳴ってるのを聞いたことが無い気がする。実は腹の音ってそれほど聞こえねえんじゃねえか?

俺がなった時も誰も振り向いたり笑ったりしないし……授業中だし誰もしないか。

(グゥ〜〜)

「タイト、飯食ってないのか。ちゃんと食えよ」

 うぉい先生、そりゃねぇよ、あんたがそんなこと言うからみんな笑ってるし。この先生

真面目に見えてその分変なこと言うとみんな良い反応するし。しかしこの時は俺にとっては

悪い反応だったが……

 

 1時間目が終わった。さぁってパンだ♪。でも休み時間内に食える大きさということも

考えねばならんのが面倒。あのでっかい「スイートブール」が食いたいが、水分が少ないので

食うのに時間がかかる。無難にアンパンとかにしとくか……

 パン売り場につくと……見た顔が。ぼーっとした感じの女生徒が、その「スイートブール」を

手にレジに並んでいる。あれは――そうだ、ゲーセンの帰り際にUFOキャッチャーの前で

会った女の子だ、学年バッジは2年……同学年だったのか、しかしあの球体のぬいぐるみといい

スイートブールといい、丸いもんばっかだな……

あおい

「よぅ、奇遇だな、えーと……」

 レジを通った彼女に声をかける。向こうも覚えていたらしく、こくりと会釈する。

「照下(てるした)あおいです……」

「俺はタイト テツ。それ今食うの?」

「これは……お昼に」

 そりゃそうだな、彼女が俺より早食いには見えねぇし。昼は結構混むからおとなしい彼女には

押し出されそうだしな。

「なるほど……ところであの球体――UFOキャッチャーの」

「あっ、サテル……」

 名前付けてんのかい……それとも元々そういう名前のものなのか?まあ大事にしてくれてるって

ことだな。取ったかいがあるってもんだ。

「かばんに……付けてます」

「そりゃよかった」

 っと、時間がねぇな、さっさと買って食っとこう。早くしないと食うのが1時間遅れる。

「それじゃ、俺は買い物するから」

 軽く手を振ると、両手にパンを持ってまたこくり。……なんか俺よくしゃべる奴みたいじゃ

ねぇか、本当はしゃべらな過ぎなんだけどな、この学校の入試のときに面接があったら

入れたかどうかわからんぞ……無いんだけど。

 パンを買って廊下で食べ歩き。先生に見つかったら怒られるだろうけど、今のところは

見つかってない。それとは別に早く食いたいだけなのだが。

 ザァァァァ……

 気が付けば窓に打つ大量の雨粒。やっぱ降ったのかよ、帰るまでには止んでくれるだろうな……?


Next Home