遊>眠


 そろそろ腕の上達速度も遅くなってきたなぁ、これ以上は無理なんじゃないの?

……と思いつつもゲーセンに行ってビーマニやってしまう。前にも何度かそう感じる

時があって、でも実際はさらに上達したりするからやっぱり可能性を求めてみたり。

 最近よりそう思えてきたのは、美鳥のおかげかも知れない。まあ俺より未熟な分、

上達する余地がいっぱいあるからかもしれんが、やはりその上達ぶりは昔の俺を越える

ものがあるとも見れる。今彼女はDP Fly HighをEASY抜きでクリアしたところだった。

さすがにsometimeで50%ほど減ってはいたが。

「かなり上手くなったよな」

 彼女の脇で見ていた俺が声をかける。と、こちらを振り返ろうとした彼女はいきなり

倒れてくるように見えた……思わず受け止める体勢を作ったが、彼女自身がでなんとか

踏みとどまる。なんか顔色が悪いようにも見えるが……

「大丈夫か?なんかつらそうだけど」

「う、うん、ちょっと眠いだけ……」

 美鳥は中途半端なあくびをしたあと、ふらふらとベンチの方へ歩いていった。どうやら

ちょっとどころの眠さではないようだ。俺も後を追ってベンチに座った。

「昨日……今日になるかな、DPを夜中までで練習してたから」

 つまり深夜12時をすぎても、ってことか。そんな時間までできるってことは、打鍵音を

気にしなくていい環境で住んでるってことで、うらやましいのではあるが。

「そんな徹夜までしてやらんでも……毎日ちょっとずつやったらどうだ」

 やっぱり1日1回は鍵盤に触ってた方が上達しやすいか?と思っての提案である。根拠はない。

「うん……でも早く上達したいし――上達したところをテツに見て欲しいし」

 そう言われると……嬉しいが、ある意味俺のせいで徹夜しているともとれる。まあそれは

口にしないが、俺としてはちゃんと睡眠はとったほうがいいと思った。

「でもさ、万全の体調でPLAYした方がちゃんとした腕前がわかるってもんだろ?

 それに……睡眠不足は肌の大敵だぞ」

 照れ隠しで言おうとしたことが蛇足のせいで余計に照れてしまった。ゲームなどを熱心に

やってると闘争心が沸いてきて、男性ホルモンが出て男らしくなって……とか聞いたことがある。

確かに女性スポーツ選手ってあまり美人が(略ぉ でも美鳥の場合はそれに当てはまらないな……

「……そだね」

 一瞬俺が考えてたことに同意したのかと思ってビクッとしたが、もちろんそうではなく。

美鳥はまた中途半端なあくびをすると、

「ゴメン、ホント眠い……ちょっと寝るから」

 といって座ったまま目を閉じた。寝る(眠る)って、こんな騒音の中……?よっぽど眠いのか、

ゲーセンの中は一応暖房が効いているから余計に眠たくなるのか……横を見ればもうすでに

舟をこいでたり。こういう状況だと俺のほうに倒れてきたりして……って、

「……おいっ!?」

 倒れるには倒れてたが、よりによって向こう側へ倒れかかっていた。そっちだと何もないので

もの凄い倒れ方をしそうと思ったので、思わず肩をつかんで支える。その衝撃でさすがに

目を覚ます美鳥。

「ん……なに?」

「なにって……舟こいで倒れそうだったから」

「えっ、あ、ありがと」

 姿勢は戻すが、やっぱりまだ眠そうだ。そうならもう帰ればいいのに……

「ねぇ、肩借りていいかな」

 突然美鳥がそう言ってきた。顔を見ると、ヤバイくらいに眠そうな表情で、目に涙まで

浮かんでるのでまともに返事が出来ず、

「あ、ああ……」

 というのが精一杯だった。自分でなにを言ったのか確認する前に、美鳥は俺の方に頭を預ける。

……全く動けない状況になってしまった。そりゃ嬉しくないと言えばウソだけど、ビーマニも

できんぞ。それにいつまでこうしてりゃいいんだ?

 ぎこちなく首を動かすと、自然な笑顔になって眠っている美鳥がいた。どうせなら俺も

眠っちまえば楽なのだが、こういう状況で眠れるはずもなく……ただただ他人がビーマニ

やってるのを見つめるくらいしかできない。

美鳥

 

 結局7時前にさすがに起こした。まだ寝たりなさそうだったが幾分マシになったようだ。

もう外は暗かったので送っていこうかと言ったが、

「ん……でも帰り道反対方向だし、街灯はちゃんとあるし大丈夫だよ」

「そうか、じゃ、気をつけろよ」

「テツもね〜」

 そもそもこんな時間になったのは美鳥のせいなのだが、まあそれは口にしないが、

ある意味有意義と言うか、なんというか……


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