お前のことを


「タイト!」

 休み時間、廊下を歩いてるといきなり背中から名前を呼ばれたので振り返ると、

益田が立っていた。何か違和感を感じたのは、名前(苗字)で呼ばれたことが初めて

だからだろうか?

「益田か、何だ?」

「アンタ、あおいと仲直りしたんだってね」

 前にも聞いたことあるような台詞だが、そのときも益田がからんでたからな。しかし今回は

益田には非が無いということが大きく違う。だからといって俺とあおいちゃんが仲良くなる

手伝いをしてくれるわけでもないのだが。

「ああ、何とか誤解も解いてくれたしな」

「……誤解?」

 あおいちゃんがどう誤解してるか、知らなかったんだっけ?益田の方があおいちゃんと

よく話してそうなのだが……

「だから、俺がお前のことを好き……だってこと……」

 って、言ってから思い出してしまった。誤解だったとはいえ本人目の前でこんなこと

言ってしまうとは、絶対益田にキレられるか、馬鹿にされるかのどちらかだろう……

「……それは……よかったじゃない……」

 しかし驚きの表情を見せた後は予想に反しておとなしかった。むしろおとなしすぎる気もする?

「まああおいちゃんが、俺に親友の益田を取られたと思ったんだろ」

 初めからこう言っとけばよかったのだが、すぐに言葉が整理できるほど文系ではない。

かといってすらすら喋れるから文系、というものでもないな、あおいちゃんとか(笑)

「おっと、これ以上お前と喋ってたらまた誤解されかねん。それじゃあな」

 2度は失敗しまいと今度は早いうちに別れておこう。俺は再び歩き出そうとした、というのに

「待ちな……さいよ」

 益田にまた呼び止められる。だーかーらー、また誤解されかねんって……

「まだ何か?」

「そんなに、誤解されたくない……?」

 いつも人の目を睨みつけるように(いわゆる「ガンつけ」)して話する益田だが、今日は何か

うつむき加減の視線だと今気付いた。それによそよそしい……って他人なんだけども。

「誤解ってのは間違ったことだろ?それがいいわきゃねぇだろうが」

「ごっ……誤解の『内容』にもよるわよ」

「内容?『親友の益田を取られた』って」

「そっちじゃないわよ!!」

恵理

 いきなり顔を真っ赤にして怒鳴る。なんなんだよ……そっちじゃないとしたら

『俺が益田のことを』か……?

「ど、どういうことだよ……」

 混乱してきたので益田に聞こうとしたらまた怒鳴ろうと口を大きく開けた。反射的に俺も

手が耳にかかったが、それを見てか見ないでか、益田は怒鳴るのを止め向こうに振り向いた。

「言えるわけ……ないじゃない……」

 ボソッとそういうと、走り去ってしまった。向こうから呼び止めておいて何だよ……

そろそろ授業が始まりそうなので教室へ急いだ。

 

 しかし授業中も、益田の不自然さが頭から離れなかった。思い出したのは、あおいちゃんと

仲直りする前「恵理さんはタイトさんのことを」ということだ。俺が思ってた誤解と逆なんだよな

……いや、あおいちゃんは誤解じゃなくて可能性と言ったような……てことは、益田が俺のことを

好きだとすると、さっきのはつじつまが――

「……ここタイト、わかるか?」

 名前を呼んだのは担任の数学教師。授業中だったっけ、全く聞いてなかった……得意の数学

なのにくやしいが、正直に聞いてなかったと言うのもなんなんで

「あ、ちょっとわかりません……」

「ちゃんと聞いとけよ?ここはx軸とグラフの交点が……」

 結局聞いてないことにされる。やっぱちゃんと授業受けるか……いや、授業よりも大事なことを

考えてたような気もするんだが……今先生が教えてる所は本当にわからないので、黒板に書いてる

ことをノートに写すのにせいいっぱいになってしまった。


Next Home