孤独好きな男


 あれから、バンドクラブがさらに暗い。

 暗いというより、開いてない……鍵持ちの宗谷が来ないからだ。あれから全く来ない。

初日は針井もしばらくは待ってたものの、最近は見切りをつけて一人で弾いてるようだ。

だったら宗谷も来るんじゃないか、と寒空の中待ってみたものの、誰も来ず……

一番バカなのは俺だったりして(汗)でもせっかく入ったんだしやる気があるからには

このままつぶれたりさせたくないな。

 

「……なぁ、針井」

 ビーマニの隠し要素が公開されて、思わずやりこんで帰りが遅くなってしまった夜、

寒い中だというのに座り込んで一人弾いている針井を見つけた。最近では弾き語りも

ほとんど見かけないな、瑠璃絵さんも寒いから控えてるみたいだし。

「そのギターが大事なものだとしてもよ……あれはちょっとやりすぎじゃなかったか?」

 愛用のギターでまだ演奏中だが、静かに言ってみた。こいつに感情ぶつけても

効果なさそうだし、クラブのことを除けばほとんど他人事なので強く言うのも変だし。

「その……あれでも一応女なんだから、男がビンタするってのはな……」

 女が男にビンタするとか、暴力ふるっていいというわけではないが、男が女にってのは

やはりかなりひどいことだ。俺だって女性に手を上げたことはないぞ。……まあそういう

相手がいなかったっていうのもあるが(哀)

「前みたいに、3人でバンドクラブってのは無理かな」

 前みたいにというか俺が一番新参者だし、一応上久部長もまだ辞めたわけでもないし。

こうなりゃその部長に相談するってのも手かな……でも勉強忙しそうだし悪いな……

「……オレは一人でいい」

 演奏の手は緩めないが、やっと口を開いてくれた。それでも肯定的な答えは得られなかったが。

「お前の性格じゃそう言うと思ったけどさ……バンドって一人でするもんじゃねえだろ?

 俺はまだ未熟だけどさ、一応片手だけならかなり弾けるようになったからさ」

 これぞビーマニ効果……かは定かではないが。ただ打鍵は強すぎる所は共通点が(苦笑)

「でもあいつがまた絡んでくるだろう」

 そこで演奏途中なのに手を止めた。話のほうに集中しようということか。

「あいつって……宗谷か?いつもくっついてたじゃねぇか」

「そろそろウザくなってきた」

 あららやっぱり……しかし「そろそろ」って、針井も遅すぎですな。というか実は針井も、

初めはちょっと嬉しかったりしてたのか?

「こいつは、俺がバイトして初めて自分で買ったものだ」

と言ってギターを大事そうにケースに仕舞う。針井がバイト……一体何のバイトかは知らないが、

接客しなきゃならないものは俺以上に向いてないだろうな、コンビニのレジとか。だからといって

力仕事って感じでもないし……まあそれは置いといて、家が金持ちだから親にねだっても

買えただろうが(それこそ針井らしからず)、これぞ自立したいという気持ちなのだろう。

自分の夢へは自分の力で向かう。こんな無愛想な奴でも俺よりも考えてんだな。

社音

「だから、他人に傷なんかつけられたくない。そう思って……」

 そう思って、つい荒いことをやってしまったのか?確かにもうギターには触りたくないと

思わせることはできたが、それ以上の恐怖も植え付けてしまったようで。

「本当は、針井もやりすぎたと思ってんじゃないのか?」

「……まあな」

 そういう割にはしらっとしてるように見えるが……そういう性格なだけに、謝り方とかも

よくわからないのかも。宗谷が直接嫌いというのではなく、ベタベタしすぎたり、大事なギターに

勝手に触ったりしたから、って感じだな。

「だったら、やっぱり謝る……というか、仲直りすべきだと思うな」

 俺の十八番、仲直り(謎)。ぎすぎすした関係でいるよりは、例え今後付き合いがあまりなくても

挨拶できる仲でいたいよな。まあ宗谷の場合は「あの関係」まで戻したいんだろうけど。

「……そうかもな」

 だから他人事のように……まあこれで一応針井もクラブに戻ってくるだろう。しかし宗谷が

来なきゃ部室は開かない。針井が自ら宗谷のところへ行ってくれたら一番なんだが……

あの落ち込みようだ、それだけじゃ済まんような気もする……?


Next Home