クリスマスパーティ(中)


「えーと、まだ何人か来てないようですけど、時間が過ぎたのでそろそろ始めたいと思います」

 上座の七希菜ちゃんが立ち上がってパーティの開会を宣言した。今席に座っているのは

俺、七希菜ちゃん、佑馬、瞳由ちゃん、北野、あおいちゃん、益田、名前は知らないけど

料理クラブの部員3人ほど、そして俺の隣に宗谷もいる。その宗谷が小声で俺に囁いた。

「ねえ、シャノン来てないじゃない」

「おかしいな……セユネさんや惟音さんが来るように言ってるはずなんだが」

 針井が来なければ宗谷が来た意味がない。連絡を取りたいが、あいつは携帯電話を持たない

主義というやっかいな奴。まさかパーティを抜け出して探すわけにもいかず、結局待つしかない。

 パーティの進行は、皆が持ってきたプレゼントを集め、それを景品にしたビンゴゲームが

行われるところ、ビンゴカードを配っている。俺も1枚だけ手にして他の人に回した。

どっちかといえばどのプレゼントを手に入れられるかよりは、誰が俺のプレゼントを貰って

くれるかどうかってことが気になる。集める時に覚えていればどれが誰のかわかるが、ちゃんと

包装されているので中はわからない。大きいものが小さなものより高価とも限らない。

 ビンゴゲームが始まった。佑馬がボールが入ったマシンを回してボールを取り出している。

今言われた数は……俺のにはないな。昔からあんまりビンゴ運ないんだよな……次々と数が

読み上げられていくが、4回に1回くらいしか同じ数字がこない。やがて、

「……あ、ビンゴ……」

 一番初めに上がったのはあおいちゃんだった。隣にすわっている益田に促されて、前に出る。

「おめでとう照下さん。どのプレゼントがいい?」

 七希菜ちゃんが言ったが、こういうときに選ぶのに時間がかかって場を盛り下げるんじゃ……

と思いきや、あおいちゃんは意外にも即決で選んだ。厚みはないが、包みの下は円形になっている

ものらしい。……「丸いもの」ね(^^;

「さあ、次に上がるのは誰だッ?!」

 佑馬の掛け声でゲームは続く。上がったあおいちゃんがプレゼントを開けているのを覗いて

みれば、中は掛け時計であった。しばらく見入っている所を見ると、気に入ったのか、それとも

プレゼントでも見ていないと間が持たないのか……

「あ、私ビンゴ!」

 次に揃ったのは瞳由ちゃんだ。さっそく前に出て人差し指を立てプレゼント群をたどる。

「じゃあ……これ!」

 そう言って指を止めた先は……俺のプレゼントだった。北野ががっかりするのが見えたが、

それは単に自分のが選ばれなかっただけだろう。あいつは俺のプレゼントの包みを知らない

からな……って、瞳由ちゃんは一緒に来てたから知ってたんだよな?それであえて俺のを

選んだんだろうか……?

 嬉しそうにプレゼントを持って席に戻る瞳由ちゃん中身は……開けるまでもないが知っている。

トランプだ。単なるトランプならしょうもないが、あれは特殊で……もしかしたら瞳由ちゃんに

とって最高のプレゼントなのかもしれない。親父に送ってもらった、Super-Abilityのキャラが

1枚1枚描かれているトランプ(非売品)なのだ。

「え……う、わ……」

 思わず驚きと感嘆の声を上げる瞳由ちゃん。ケースも開けると1枚1枚食い入るように絵を

見ている。好きなのはわかるが、何もここでそんなに見ることないじゃないか、北野も不思議

そうに見ているぞ。

 

 ビンゴゲームも終わり、皆にプレゼントが行き渡った。結局最後に残ったのは俺で、余り物の

プレゼントは女の子らしい手紙セットだった。きょうびメールとかあるのに手紙って……

第一俺は書かんぞ。

 今は会食の時間、それぞれ談笑しながら好きな食べ物を手に持っている。あおいちゃんも

益田がついているからそれなりに会話の輪の中に入ることができているようなので、こっちは

一安心だ。一方問題なのは宗谷の方である。針井は来ていない。宗谷はプレゼントをもらっても

包みを開けようとしないほど元気がない。まさかこのまま帰るとか言うんじゃ……

 ピンポーン

「針井君、こんにちわ」

 七希菜ちゃんが応答を……針井!?宗谷もバッと顔を上げる。しばらくして部屋に入って

きたのは、ちゃんとプレゼントの包みを持ってきた針井の姿があった。宗谷と目があった途端、

宗谷のほうはうつむくが、針井は近づいてきた。宗谷の前まで来ると、立ったままプレゼントを

突き出し、

「……やる」

「…………」

 目の前に突き出され思わず針井の方を見る宗谷。俺には普段の仏頂面の針井にしか見えないが、

これでも針井なりの仲直りの手段なのだろう。宗谷はおずおずとプレゼントに手をのばした。

「あ、ありがと……」

 宗谷は礼を言うと、思い出したように自分の鞄を探る。出てきたのは、これまたプレゼントの

包み……さっきビンゴで貰ったのとは別のものだ。針井にあげるものだろう、さすがに今ビンゴで

貰ったものをやるのはいろいろ失礼だろうし、このプレゼントは針井のために用意していた

ものだろう。針井も無言で受け取った。2人同時に包みを開ける。

「これ……」

「……」

 針井からのプレゼントはバンダナ、宗谷からのプレゼントは……柄は違うがやっぱりバンダナ

……お互い偶然にも同じ物をプレゼントし合っていた。ばあバンドクラブ同士だもんな、

「バンドァ(ダ)ナ」って……関係ないか。宗谷は偶然にしばらく驚いていたが、針井のほうは

いきなり包みを破ると、バンダナを頭に巻きだした。宗谷がぼうっとその光景を見ている間に、

針井のは頭に巻き上がっていた。

「……これでいいか?」

 ちょっと照れくさそうに聞く針井を見て、宗谷の目は段々と潤んでくるものがあった。

手で目をこすると、自分も包みを開けて首にバンダナを巻く。

「……これでいい?」

巫琴 & 社音

 宗谷の顔にようやく笑顔が……針井の方は相変わらずだが。俺も2人を呼んで正解だったと

満足だな。またこれで宗谷のベタベタ振りが発揮されるのかと思ったが……このパーティでは

見せなかった。さすがにまた嫌われかねないと思ったからか? それにしても針井、遅れて

来たのは演出かと疑うほどだったが、これこそ「外国では時間より遅く来るのがマナー」って

やつか?自分の家でも外国人の知り合いでも招いてパーティやってたりしそうだしな。


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