クリスマスパーティ(下)


 楽しい時間はなんとやら、そろそろパーティもお開きの時間が近づいてきた。外は小降りだが

まだ雪が降っていて、庭にはうっすらと積もっている。夜も降りつづければかなりの積雪に

なるだろう。

 家の中では全員で片付けが始まっていた。俺も空の皿をキッチンへ運んだが、洗いものは

女の子たちがすすんで洗ってくれている。だから男どもは部屋のかざりの高いところに付いてる

のをはずすことを今やっている最中である。色紙の輪っかのチェーンを取っていくうちに

佑馬に近づいてきた。

「な、パーティやってよかっただろ」

「パーティ自体は好きさ、でも2人きりの方がな……」

「まあまあ、クリスマスに限らなくてもいいだろ」

 とは俺は思うのだが、世間ではやっぱりクリスマス(イヴ)がいいのか、あおいちゃんの友達の

河合さんと、天文クラブの部長は1日デートで、夕食はちょっとしたレストランらしい。

というか2人か付き合ってること自体初耳で驚いたのだが。

「ありがとうございます、あとは私がやりますから皆さん帰っていいですよ」

 七希菜ちゃんが言うと、半数くらいの人は荷物をまとめて帰っていったが、俺を含め何人かは

厚意でまだ手伝っている。俺、佑馬、瞳由ちゃん、北野、あと料理クラブの……岡村 理奈

(おかむら りな)さんだっけ?6人で片付けの仕上げをすると、パーティの跡形もないほど

綺麗な部屋になっていた。

「ありがとう皆さん、お茶でも飲みません?」

 洗ったばかりのカップに、またコーヒーや紅茶が注がれた。ペットボトルのではなく、

お湯を注いだあったかいものだ。全員が無言で飲みだす。初めに言葉を発したのは佑馬だった。

「ま、ちょっと疲れたけど大成功だったね」

 着ぐるみは片付け時に脱いでいて今は普通の服装だ。七希菜ちゃんは帽子と靴は脱いでいるが、

その他は着替える暇がなかったのかそのままである。

「私は去年よりも盛り上がったと思いますわ」

 と言ったのは岡村さん。ちょっと喋り方が上品っぽいが、七希菜ちゃんの友達らしい。

言葉からして去年もパーティに来てたらしいな。

「来年は……難しいだろうけどまたやりたいね」

 これは瞳由ちゃん。来年12月は受験のシーズン、勉強に専念しなければならないが、

まあ1日くらい遊んでもバチは当たらないだろう。

「……ちょっと雪、降り方強くなってきてない?」

 瞳由ちゃんが帰るまでいるつもりだったのか、それでも天気が気になっていたのか、窓の外を

眺めていた北野がいよいよ心配になって言葉にした。それで全員外を見ると、確かにさっきより

降っている量が多くなってるように見える。家が遠い人は苦労しそうだな……七希菜ちゃんも

しばらく雪が降るのを見つめていたがハッとして、

「ごめんなさい、引き止めちゃって……傘お貸ししますよ」

 

 さすがに傘に限りがあるので、俺と瞳由ちゃんで1本の大きい傘を借りることにした。

これには北野もあからさまに非難じみた視線をぶつけてくるような気もして、瞳由ちゃんも

気まずそうだったが、帰り道が逆なので出発すれば2人きりとなる。手が冷たいが瞳由ちゃんの

手が冷たくなるよりはいいと思って俺が傘を持つ。アスファルトの道路も、歩道側は雪が

積もり始めていた。

瞳由 & 北野

「こりゃ結構積もるな……ホワイトクリスマスどころじゃないんじゃないか?」

 折角デートしてたのに、車が進まなくて渋滞、なんて最悪だからな。どちらにしろ俺は

デートなら歩きの方がいいと思ってる。一緒にいられる時間が長いからな……

「ねぇ、テツ君」

 不意に瞳由ちゃんがこちらを向いて尋ねてきた。

「あのトランプ……どうやって手に入れたの?」

 やっぱ俺のだと知っていたのか……というかその質問を尋ねられるとは思いもしなかったから、

返答に焦る。正直に「親に送ってもらった」、なんて言ったら不自然だから……

「ああ、えーと……友達でね、兄妹であのトランプの応募ハガキ出したらしいんだけど、2人とも

 当たっちゃって、妹は名義だけ借りたからトランプ自体は興味なくて、それだったらって

 ゆずってもらったんだっ」

 我ながらよくそんな作り話が浮かぶもんだ、やっぱりこれも親の血か?(汗)

「ふーん……その妹さん興味ないんだ……」

 ちょっと残念そうな瞳由ちゃん。万人がSuper-Abilityを愛して欲しそうだな……親父も

ビックリするほどの熱狂的ファンだな。

「でも、テツくんだってこれ、自分のものにしたくなかったの?」

「ん?ああ〜……他にプレゼントになりそうなものなかったんで……」

 「トランプに興味ない」というのは解答にならんだろうな、絵柄の方が主なのだから。これ以上

なにか突っ込まれても困るので俺のほうから話していこう。

「やっぱ、トランプは瞳由ちゃん用として、別のものを用意すべきだったかな、もしかしたら

 別の人が取っちゃってたかもしれないし」

「え、ううん、結果的には私のものになったんだから……ありがとう」

 ぶんぶんと首を振って、黙り込む。しばらく何も言わず歩くことにしよう。雪の降る音は

聞こえないが、雪を踏む2人の足音と、遠くのほうで車の走る音が聞こえるだけだ。

時間が時間なので白というよりグレーの世界なのだが、雪自体が発行しているように見えて

気分的にはやはり明るく見える。

「手、冷たくない?交代するよ」

「いや大丈夫、瞳由ちゃんはポケットに入れてなよ」

「じゃあ……一緒に持とう」

 俺の手の上から、瞳由ちゃんの手が……なんのためらいもなく重なる。温かい……俺の手は

冷たいから申し訳ないのだが。俺が驚いて瞳由ちゃんを見ると、彼女は下を向いていた。

足元が滑らないよう注意しているからか、照れてるからか……

 それから家までは本当に一言もなかった。でも俺はクリスマスパーティとはまた違った

悦びがこみ上げてくるのを感じた。


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