バンド


 ピピピピピ、ピピピピピ……

 目覚し時計が鳴っている。だが鳴る前に目がさめていたような気がする。今日は目覚めが良い。

やはり早寝のおかげだな、毎日出来るといいのだが、どうしても深夜番組で見たいものがある日

というものはある。別にアヤシイ番組じゃないぞ。

 カーテンを開ければ、昨日の雨はやみ、空は晴れきっていた。道路にはまだ水溜りはあるが。

今日はバンドクラブを覗いてみようと思っている。まあ初日すぐ入れられることはないだろうし、

楽器が使えなきゃダメ、とかもないだろう。それならそれで諦めてもいいけどな。

 余裕をもって、学校に向かった。

 

(省略)(ぉ

 

 またいつもの授業が終わった。さて、行ってみるか。

 バンドクラブは運動場の向こうのプレハブでやっている。まあ他のクラブが大きな音を迷惑がる

ことの無いようにの位置だろうが、あそこからそんなに音を聞こえたことが無いような気も

するのだが……とりあえず戸を叩いてみる。

 ……返事が無い。扉を開けようとしたが鍵がかかっている。どうやらまだ誰も来ていない様子。

扉の前で待たせてもらうことにした。

 数分後……運動場の向こうから一人の女生徒が歩いてくる。あれはチラシを配っていた

宗谷 巫琴だ、カツラは青いが、地毛は黒髪だ。しかし両方ともおかっぱとは、その髪型が

気に入っているようだな。どうやら向こうもこっちに気づいたようだ、遠くから声をかけられる。

「あんた、入部希望してるの?!」

 やや期待したような声で呼びかけられる。俺は彼女が目の前まで来るまで待ってから返事する。

「まだ……『お試し期間』ってあるだろ?」

 そういうと、ちょっとがっかりしたような顔をした。そんなに部員が欲しいもんか?そりゃ

いろんな楽器を増やせるが、5・6人いりゃ十分じゃねぇのか?

「そう……まあいいわ、とりあえず中で待ってて」

 彼女はポケットから鍵を取り出すと部室の扉をあける。どうやら彼女がよく一番初めに部室に

来るから、鍵当番になっているのだろう。俺も扉をくぐった。

 中は……なんかこざっぱりとしていた。ギター、ベース(どっちがどっちか見分けはつかんが)、

ドラム、キーボード、スピーカーなどが無造作に置かれている。そして窓があるにもかかわらず

暗ーい雰囲気がする。こんなんでやってんのか? 彼女は窓を開けたが風はほとんどないので

空気は入れ替わらない。

 俺がその様子をぼーっと見ていると、後ろで扉が開く音がした。振り向くと俺より少し高い影

……逆光で見える髪は鮮やかな緑をしていた。こいつはハーフの針井……

「シャノン♪」

 宗谷(こいつに「巫琴ちゃん」は似合わない……)が甘えた声で名前を呼ぶ。ホントこの女は

所構わずベタベタだな、そうでないときは「姐御(あねご)」って呼ばれてるのに……

「こいつは?」

 無愛想につぶやく。前髪が長くて視線が見えない。俺も長いが、そこまでやると目ぇつくぞ。

「ああ、入部『予定』の――」

「タイト テツだ。」

 皆2年なのでタメ口だ。どちらかと言えば敬語は苦手だが、あれは自分が尊敬する人だけに

使うものと思っている。先に生まれたからって別に偉いわけでもないし。そういや3年はまだか?

「部長がまだね……」

 宗谷がつぶやく。気が付けば針井は窓の前に立っていた。奴の長い髪がかっこつけているように

なびいている。さっきまで風なんか吹いてなかったのに。だがおかげで部室の空気がマシになった

ような気もした。

「や、待たせてスマンな」

 訛ったイントネーションと共に扉が開き、「3」の学年バッチをつけた男子生徒が入ってくる。

3人で俺の話をしているのを聞いていると、どうやら彼が部長の上久 選(うえひさ すぐる)のようだ。

巫琴 , 社音 & 選

「ほな、皆そろたところで練習しましょか」

「ちょ……皆って……?!」

 部長が始めようとした所で俺が止めた。「皆」って、まだ3人しかいねぇじゃねえか。

「実は3人しか部員いなかったりして(^^;」

 マジかよ……宗谷が軽く言うのは、もう慣れているからだろうが、部活推進校とはいえ部員

最低限の3人ギリギリじゃねぇか。

「なんでそんなに部員いねぇんだよ」

「ほりゃ女子部員がおらんと男もやる気ないやろ」

 部長の言葉に思わずうなずく俺。そして部長をジロっと見る宗谷。まあ彼女は姐御な上に

針井にベタボレだから誰も狙う奴はいないだろうな。

「じゃ、なんで女子は来ないんだ?別に男女どっちでも出来るんじゃ……」

「あたいが追い返してるから」

 彼女の言葉に思わず言葉を失った。部員少ないのになんで……

「だって、シャノンかっこいいから、誘う娘が出たら困るし〜〜」

「部活の存続より男かよ……」

 まあ誰でも最後は自分の利益が大切にするものだが、ここまで来ると病気だな……見た目は

どうとも思っていない針井が、実は宗谷に催眠術をかけて……んなわけないか。

「とりあえず、わてらの演奏聞いてみてや。」

 上久部長が言う。確かに3人いれば演奏はできるだろう。近くにあった椅子に腰掛け、

彼らの準備を待つ。

 数分後、運動場に久しぶりに気合の入った曲が流れることとなる。


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