頼られて


 ある休み時間、トイレから帰ってくる途中の廊下であおいちゃんと出会う。俺が声をかける前に

珍しくあおいちゃんの方から話し掛けてきた。

「あの……タイトさん」

 相変わらず小声だが、ただボソボソっと言っているというよりは、恥ずかしそうに

もじもじしているようにも見える。ってことは、最近あおいちゃんのことが可愛く見えていると

いうことなのだろうか。

「今日の放課後、一緒にテスト勉強しませんか……」

 来週からまたテストがある。しかしそれが終わればいよいよ楽しい修学旅行だ。

毎年北海道と決まっていたのだが、生徒の要望で今年からは北海道でも「スキー合宿」も

兼ねた旅行となっている。俺もスキーはやったことないから、1度はやっておきたいよな。

その旅行を楽しいものにするためには、このテストを切り抜けねばならんということで……

ま、テスト期間じゃなくても彼女に誘われたら断わる理由もないしな。

「ああ、いいよ」

「じゃあ、図書室で待ってます……」

 そう言うと、あおいちゃんも自分の教室に戻っていった。あおいちゃん文系だったよな、

お互い共通の教科が少ないのは残念だが……まあ勉強どうのこうのよりも、あおいちゃんと

一緒に勉強するってことが楽しいことだよな、うん。(どっちが目的だ……)

 

 しかし……冷静に考えてみると、あおいちゃんってあんまり勉強できるほうじゃ(略ぉ

……まあ勉強しないよりはマシなんだけど、そもそもお互い教え下手だと思うんだけど……

2人とも黙々と問題解くだけだったりしてな(汗)あ、もしかしたら益田を連れてくるかも。

あいつは学力トップクラスだからかなり強力な助っ人になりそう。もう一人のトップの

七希菜ちゃんは、ほとんど佑馬に占有されちまったからなあ。

 とか考えてるうちに図書室に着く(放課後だったりする)。扉を開けて中をのぞくと、

既に来て机に向かっているあおいちゃんが見えた。

「お待たせ、あおいちゃん」

 俺も彼女が座っている席の近くまで行く。見渡せばそこそこの人数が同じように勉強を

している姿が見えるが……

「益田は……来てないんだな」

 なんとなくあおいちゃんと益田はワンセット、みたいなイメージが定着しつつあったので、

何気なく言葉してみたのだが、それを聞いてなぜかあおいちゃんが暗くなる。

「恵理さんのほうが……よかったですか」

「えっ?あ、いや……そういう意味じゃなくて――ほら、そう、なんつーか、あれだ、

 いつも一緒に勉強してるって言ってたじゃない?」

 思いつく場つなぎの言葉をほとんど言って、誤解の少なそうな説明をひねり出した。

といってもその言葉しか思いつかなかったのだが……あおいちゃんって結構被害妄想の

多い娘なのかも?

「今日は、言いませんでしたから……」

 いつも一緒ってわけではなさそうだな、もしそうだったらすでに益田がここに来てるだろうし。

ともかく俺も彼女の隣に座って俺も勉強を始めた。「一緒に」感を強めるために、同じ教科を

やろうということになったのだが……

 

「あのタイトさん、ここは……?」

「……ああ……そこはね……」

「……あ、ごめんなさい、私ばかり聞いてしまって……」

 ぶっちゃけると、あおいちゃんの質問の数は尋常じゃなくて、数学なんて各問ごとに

尋ねてくる始末。おかげで俺の問題は、考えがまとまりそうな所で霧散……かといって俺も

あおいちゃんに聞くことも出来ないしなぁ、こう考えると益田ってこういう状況で

勉強できるなんてすごいかも……というかそのときは完全に「家庭教師」に徹しているのか?

あおい

「いや、頼りにしてくれてるってのは俺も嬉しいし」

 少なくとも彼女に声をかけてもらわなかったら、テスト勉強自体もするかどうかわからなかった

だろうし、普段あんまり喋らない彼女の声がいっぱい聞けたしな。

「っと、もうこんな時間か……暗くなるの早いから、そろそろ切り上げよう」

 あんまり遅くなると女の子一人帰らせるのは危険だし。怪しいのに襲われても悲鳴とか

あげなさそうだしなぁ……

「テスト楽に終わらせて、一緒に修学旅行行こうなっ」

「はい……あの……」

 勉強道具を片付けながら、あおいちゃんがおずおずと尋ねてくる。

「スキーも……教えてくださいね」

 いや……俺はなんだってできる奴じゃないんだけど……そりゃやったことはないけど、

ド派手に転んじゃうとも思わないし、俺自身要領いいほうかも知れないけど(楽器はダメだけど)。

「……あ、ああ」

 もしかしてあおいちゃんって最近、益田よりも俺のほうを頼りにしてたりして……

総合的には益田の方が上のような気がするんだけど、やっぱりあおいちゃんも、異性に

教えてもらうほうが嬉しいとか……つーか俺もか(ぉ


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