修学旅行5日目


 なんとか今日は晴れてくれたみたいだ。だが昨日の雪で道が混むことが予想されるからって、

予定より早くスキー場を出ることになった。結局滑れたのは1日半か、さすがに物足りん……

しかも昨日までに疲れも取れたのでせっかくやる気もあるというのに。走るバスの中口惜しそうに

スキー場の方向を眺めていると。

「昨日は残念だったね」

瞳由

 今日も隣の席に瞳由ちゃんが座っている。俺が彼女の滑りを見たのは、3日目に上のほうから

降りてきたときだ。素人の俺からは優雅に見えたよなぁ……俺もあのくらい滑りたくなりたいな。

「ああ、滑ってる人はいたのに、先生が滑らさせてくれないもんな」

 とは言っても実際俺もあの吹雪の中やりたくないし、やってる人を「よくやるよ」とか

思ってたくらいだし。

「またスキーやりたい?」

「そりゃ、こんな中途半端で終わらせたくないなぁ」

「じゃあ地元の近くのスキー場に行こうよ」

 瞳由ちゃんは結構スキー好きなのか?俺は近くのスキー場なんて知らないが、ありそうな所

あったっけ……近くの山、そんなに雪積もってるようにも見えないが……まあ人工雪って手も

あるらしいけどな。

「そうだな……みんな誘って」

「みんなって……千代川さんと名倉君とか?」

 俺の思惑をピタリと言い当てられた。そりゃいつもこのメンバーになってるから当然か。

でも瞳由ちゃんはちょっと不服そう?

「お二人付き合ってるでしょ?私たち邪魔になって悪いわよ」

 邪魔か……なんか、佑馬と七希菜ちゃん2人でスキー場行ってるのを想像してしまったが、

二人ともそんなにスキー上手じゃないのに(俺もだけど)、うまくやれるのかなぁ。

「……それもそうだけど……じゃ、他に誰誘う?」

「別に誘わなくても……私たち2人だけでは……?」

 ふ、ふたりって……そんな、男女ふたりきりでスキーに行くなんて、佑馬たちならともかく、

付き合ってるみたいじゃないか……断わる理由はないけど、ものには順番ってものがあるし、

高校生が2人きりでそんな所行くのは……なんて言って、実は全然見当ハズレで、瞳由ちゃんは

普通に友達づきあいで遊びに行こうとしてるのなら、また勝手な妄想だよなぁ……隣の彼女は

至って普通の表情だ。微妙に赤くなってる気もするがそれはバスの暖房のせいだろう。

「……う、うん、それでもいいけど……」

 とりあえずそう答えることにした。今はどうかわからないが、そのスキー場で進展するかも

しれないし。例えば滑ってるうちに2人ぶつかって倒れこんで……ってまた妄想してるな、

しかもそれは当たり所悪かったら危険だし……

「じゃあこの冬に、いつか行こうね」

 なんだか、瞳由ちゃんの一言一言が俺を「誘っている」ように聞こえてならない。俺のことを

好きだという娘がいたら嬉しいが、俺に好きになってもらうために八方手を尽くされるのは

あんまり好きじゃない。俺って「愛されるより愛したい」のかなぁ、そんな歌もあったけど。

 

 とは言うものの、バス→飛行機→バスと乗り降りすればやはり疲れるし、元々車酔いしやすい

体質なので、学校に戻ってくるころにはヘトヘトになっていた。オッサンオバハンではないが、

やっぱ地元が一番というか……旅行好きじゃないんだよな。明日は休みにしてくれるから、

ホント1日中寝るか……

「ねぇテツ君」

 重い荷物を抱えながら数百メートル先のマンションへ向かって歩く俺と瞳由ちゃん。

喋ることさえ煩わしいほど疲れていたが、耳だけ傾けてみた。

「いつ頃行こうかな、スキー場」

「…………」

「本当は期末テスト終わってからがいいんだろうけど、スキーの時期終わっちゃうし」

「…………」

「2月中の土日のいつかに行けるといいんだけど」

「……瞳由ちゃん」

 たまらず口をはさんだ。

「今帰ってきたばっかなのに、旅行の話をするのはよそうよ……」

「あ、ゴメン、そんなに疲れてるの?」

 そういう瞳由ちゃんは疲れてないのだろうか、それとも俺が疲れてるのは車酔いのせいだけ

なのだろうか。ともかく短い道のりは常に瞳由ちゃんが先を歩くことに。情けねぇ……

「荷物少し持とうか?」

「……いや、女の子に持たせるなんて……」

 当然のことすぎて普段はあまり意識しないのだが、いざ口にしてみるとなんかドキドキする。

女の子。俺とは違う性別。恋愛対象になりうる存在。そして彼女は、今一番身近にいる女の子。

10ヶ月ほどそばにいても飽きるどころか、数日会わないとどうしてるかなと考えるときも。

やっぱ俺って、瞳由ちゃんのこと……

「ふぅ、やっと着いたね」

 エレベーターに乗って4階へ、それぞれの部屋は隣同士。夕日に照らされて瞳由ちゃんの顔が

まぶしく光って見えた。

「じゃあまた明日……明後日かな?」

「ああ……お疲れさん」


Next Home