「あ、頂きます」
自販機で缶コーヒーをおごってもらう。ゲーセンを出たLUISさんと俺は、何処とはなしに
その辺をぶらつきながら話をすることにした。その話の中心となる美鳥の姿は見当たらない……
先に帰ってしまったのだろうか、それほど嫌なことがあったのか？このLUISさんは悪い人に
見えないけど、彼が加害者でなかったことを願いたいな……
「彼女と初めて会ったのは、一昨年の秋――4th styleが出だした頃かな」
さすがビーマー、時期もビーマニに合わせて……ってことじゃないと思うけど。
やっぱ出会いはビーマニとか？
「彼女は友達とプリクラでも撮りにか、僕が遊んでるゲーセンに来てた。確か僕はDP DXY!を
練習中だったんだけど」
DXY!っすか……やっぱ次元が違うな……っていうかそのときの曲まで覚えてるって……？
「もう少しでクリアしそうなところで、走ってきた彼女が誤ってぶつかってきて、
クリア出来なかったんだ」
うわ、俺がDXY!クリアしそうでそんなことされたらかなりキレるだろうな……相手によるけど。
美鳥とかだったら怒るに怒れずにストレス死しそうだが。
「まだその頃はビーマニやってなかった彼女だけど、クリアし損ねたことはわかって、何度も
謝ってたね。まあそのくらいで怒るのも大人げないし、気にしないでって言ったんだけど」
そりゃそんだけ腕がありゃ余裕はあるだろう……でもこれって、俺が美鳥と出会った時と
似てるな、あの時は美鳥の方がビーマニしてたんだけど。
「その後、何度か同じゲーセンで会って、その度に僕がビーマニやってるのを見てたね、
そのうちに彼女もやりだして……話もするようになった」
適当に歩き回っているうちにまたゲーセンの前までやってきてしまった。２人はまた別の
道を歩く。この辺は俺は知らないからLUISさん任せだけど。
「もしかしたら彼女は僕に好意を持ってたかもしれないな、恋人いるのかとか聞いてきたし。
僕はと言えば、まだビーマニ友達とまでしか思ってなかったけど」
俺はどうなんだろう……単なる友達だろうか、そうなのかも知れないけど、そう思いたくない
自分がいる……それ以上の関係を望んでいる俺が。
「美鳥もう上手くなって、そのうち僕がDPでやってたHELLコースにSPで挑戦するようになった」
あいつがHELLばっかやってたのはLUISさんの影響で……しかし上達早いな、やっぱLUISさん
みたく上手くなりたいとの想いからだろうか。
「丁度１年前、２月のある日。いつものようにゲーセンに行くと、彼女が男２人にからまれてた。
何でも、EXPERT DPを２人がかりでやって、そのパスを採ってたのを非難したらしい。
きっと僕よりスコア出てたからなんだろうな」
やっぱいるんだなそういう奴ら……でも美鳥もよく口だすよな、つっかかられたって
当然の状況だぞ……それほどLUISさんが１位であって欲しかったのか。
「ゲーセンで喧嘩はよくないと、僕は間に入って止めようとした。そしたら……僕が殴られたな」
そいつらは彼をLUISさんと知らないで殴っちゃったのか？というかそんなこと皆に知られたら
その２人組、ＩＲにも登録できんだろうな……そんな話は聞かなかったから、多分今まで
話してなかったのだろう。しかししばらく、LUISさんがＩＲに登録しない時期があったが……
もしかしてその事件のせいなのか？得点にこだわりすぎるのも考えものだと思ってとか。
「美鳥は泣き叫んでたね、自分のせいでって。そりゃ痛かったけど、平気だって答えたんだ。
でもその日から、そのゲーセンに彼女は来なくなった」
それで俺がよく行くゲーセンに来るようになったのか。でもビーマニはやめなかったんだな、
LUISさんに教えてもらったゲームなんだもんな。
「僕と会うとあの日のことを思い出すから避けてたんだろう。僕も安易に声をかけるべきじゃ
なかったかな」
「でもそのおかげで、俺も話を聞くことが出来ました」
話も終わったようなので、ここで頭を下げる。
「僕が君に話したのは、この話を聞いても彼女とうまくやっていけるか考えて欲しいからだ」
LUISさんは立ち止まって俺の目を正面から見る。眼鏡の奥の眼は真剣だった。
「もし同じようなことがあったら、美鳥は君の元を離れるだろう。君が彼女のことを
どう思ってるかはわからないが、お互い傷つくことは間違いないし、僕も望んでいない。
できることなら、君が、彼女のトラウマを断ち切ってほしい」
「断ち切るって……でもどうやって……」
「それはわからない……でも僕にできるのは話すことだけだ」
LUISさんと別れて、いろいろ考えながら俺も家に帰った。多分美鳥は、俺がLUISさんから
皆話を聞いたと思ってるだろう。次会ったときの会話が肝心だな……「次」会えればいいんだけど
……一応ＰＳ２貸してるから大丈夫だよな？