材料


 クラブの帰り。いつもよりは遅くなったが、それでも他のクラブよりは早い方だ。

他のクラブの部室ではそれぞれ活動が行われているだろう。この学校はクラブ数が多いから

一般の教室を部室として借りているのもあるし。それは少人数のクラブだけど。ウチの

バンドクラブは例外だけどな。

 さて、いつものごとくゲーセンでもいこうかな、と校門を出ようとしたとき、前から

買い物袋を抱えた生徒が歩いてくる。緑がかった髪の毛におっとりした目、あおいちゃんだ。

学校の近所にコンビニがあり、そこの袋と同じのだ。そういえば彼女は料理クラブらしいから

その材料だろう。しかし女の子一人が持つには量が多すぎるぞ、フラフラしてるし。

「あおいちゃん」

 俺が声をかけると(既に気づいていたかもしれんが)、彼女はなんとか頭を下げてあいさつした。

「重いだろ?持ってやるよ」

「でも……帰るんじゃ」

 この辺の会話は典型的だなぁ(ぉ……しかし女の子が困ってるのに(多分)、見捨てていくのは

男じゃないし。それに卵とか落としかねんぞ(汗)。

「どーせ暇だし大丈夫って。それとも迷惑?」

「いえ……じゃあお願いします」

 彼女は買い物袋を俺に渡そうとしたが、それ以上腕が上がりそうになかったので、俺の方から

受け取ることに。確かに重いが男の俺ならこのくらいなら平気。それともビーマニで腕が鍛えられ

……それは関係ないか。とにかく学校に戻ることになった。

 

 料理クラブは、当然調理室でやっている。家庭科で1学期に1回は調理実習するのだが、

確かに楽しい一方、材料は各自で購入だから金が減る。それに俺は普段から料理してるから

他の生徒ほどは楽しくないし。あと材料忘れる奴が出てくるのな。牛乳とかはコンビニで

買えるけど、生野菜とかは無理。他のグループにおすそ分けするしかない。それはかっこ悪いので

俺は前日に必ずチェックしているぞ。

あおい

 調理室の前まできた。気を利かせて後ろにいたあおいちゃんが先に扉を開けてくれたが、

片手でも袋は持てたので俺が開けてもよかったのだが……つーか開けた扉の向こうは女子ばっかで

男子の俺はちょっと後ずさりしそうになった。向こうも戸惑ってるようだったが。

「タイト君?」

 初めに声をかけたのは、同じ料理クラブの七希菜ちゃん。ま、知り合いがいて助かったか。

俺は袋を前に出し、

「ああ、あおいちゃんのお使いの帰りに、コレ運んできたんだけど」

「ありがとう……照下さん、やっぱり一人じゃ多かったでしょう?」

 礼は言ってくれたが、それよりもあおいちゃんを心配する七希菜ちゃん。彼女の性格なら

一緒にお使いに行きそうなものだが……?

「ったく、またアンタ?」

 急に耳に突き刺さるような声を出したのは、いつぞやあおいちゃんをイジメてた背の高い女、

益田 恵理。こいつも料理クラブかよ……

「あの子を甘やかせないでちょうだい、ホントに何も出来なくなるんだから」

「甘やかせって……俺から進んでやったんだって」

 どうせこいつに何を言おうが聞く耳持たずって感じだが……とりあえず穏やかに反論。

「同じよ! 包丁持たすと危ないから、お使い係にしてあげたっていうのに、一人でできないなんて」

「益田さん、そんな言い方は……」

「千代川さんは黙ってて!」

 七希菜ちゃんまで怒鳴られ閉口。この女、どうやら元々そういう性格か……でもあおいちゃんに

だけ当たりすぎってのは……と、俺から買い物袋をひったくって中身を確認し、

「とりあえず言ったものはそろってるからこの辺にしといてあげるけど。まあメモに書いて

 忘れるなんてことはさすがにしないわよねぇ」

と言い残して冷蔵庫のある奥へ行ってしまった。周りのみんなは益田の方をあっけに見ているが、

どうやらあおいちゃんは益田だけにイジメを受けているようなので、とりあえず安心……って

言い方はないか。きっと七希菜ちゃんもついていこうとしたのをあいつに止められたんだろうな。

その七希菜ちゃんが近づいてきて、こそっと

「タイト君、気を悪くしないでね、増田さんいつもこうなの」

「まあそれはわかったけど……なんであおいちゃんに?」

「……わからないです」

 被害者のあおいちゃんがわからないっつーんだったら、俺がわかるわけもなし。かといって

益田本人に聞けっつーのも酷だしなぁ……言ってくれそうにもないし。

「ほら、用が済んだら男は出て行く!」

 戻ってきた益田がまた叫ぶ。そりゃこのクラブには女子ばっかみたいだが、男子禁制って

わけでもねぇだろ、今や男でも料理できにゃならん時代だぞ。

「はいはい、それじゃお二人さん」

「ゴメンね、また明日」

「ありがとうございます……」


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