回避


 今日も登校。いくらゲーム好きだからって学校サボってゲーセン行くほど勇気はない。

授業中寝る勇気はあるのだが……勇気以前の問題だがな。

 とまあ眠い目をこすりながら校門を通る――丁度後ろで車が急停車する音が聞こえる。

私立とはいえ車で送り迎えするのはほとんどいない。俺が知ってるのはただ一人……振り返れば

思惑の車、そして人物。芸能・高校生活の両立を目指す山藤 藍子だ。アイドルなんだから

ほとんどの生徒に人気があるのは当然だが、俺は皆とは逆にその場からいち早く去ろうとした。

「あ、タイトくんおっはー!」

 去ろうとしたというのに。彼女は知っている人物(俺)を見つけると例の流行語であいさつ。

そりゃああいうことがあったら名前は覚えられただろうけどさ、そういうことがあったからこそ

覚えて欲しくないというのに。

「おーい、タイトくーん?」

 彼女は周りを気にせず、返事をしない俺を呼びつづける。だが荒井田の奴がからんでくると

面倒なことになるので、俺から避けるしかない。

藍子

「こらー、タイトテツ〜!」

「……っなんだよ!!」

 が、あまりにも呼びつづけるので我慢しきれなくなって思わず叫び返した。俺は委員長か(謎)

「だってあいさつしてくれないんじゃない」

 それほど走っても来ずに俺の目の前まで来る山藤。もう芸能人だってこと忘れてるのか?

切り替えのできる奴っていいよな……いいのか?

「ああ、おはよう」

 言いたいことはあるが、長いこと話し込むのは危険なのでさらりと返して、また教室へ向かう。

「何それ、そっけないなぁ」

「元からだ」

「この前はそうじゃなかったのに」

「機嫌の問題だ」

「私のこと嫌ってない?」

 急にそんな質問をされて言葉につまる。結局会話してることに変わりはないのだが……

ここで嫌いと言っておけば、もう俺のことは無視してくれるだろうし、荒井田に狙われることは

なくなるだろう。だが……女の子に面と向かってそんなことを言えるわけもなかった。

「そういうことじゃなくて、だからさ」

 仕方がないのでここは正直にこの前あったことを話してみることにした。

「きみのそばによく付きまわってる3年生の荒井田ってのいるだろ?俺たちが話してるだけなのを

何か勘違いして、きみの周りに近寄るなってインネンつけられてさ、面倒なことはご免だから

俺の方から回避してるわけ。別に嫌いというわけじゃないってことは言っとくけど」

「…………」

 目の前の彼女は一気にまくしたてられて唖然としている。つーか俺も息があがってたり。

「結構喋るほうじゃない」

 が、こちらの考えはあまり伝わってないようだが。

「そんなのあの人が勝手に決めたんじゃない、気にしちゃダメだって」

「だから勝手にいちゃもんつけて来るから……」

「そのときには私がちゃんと間に割ってあげるって。『私のためにケンカしないで!』って(笑)」

 全然真剣みないんですけど……まあ俺も深刻になりすぎかもしれんが。

「それに、あの人しつこすぎるのよねー、いつまでたっても『あいこちゃん』って呼ぶし」

 高校では本名の「あいす」で呼ばれたいとのこと。だが荒井田はアイドルの「やまふじ あいこ」

を祭り上げている。しかしそれは、どちらの生活でも性格は同じ、裏表が無いというのを

証明してるのかもしれない。

「じゃあさ、あなたがあの荒井田って人おっぱらってよ」

「はぁ?無茶言うなよ、ケンカ吹っかける気か」

「でも意外と強そうに見えるけどな〜」

「例えそうだとしても、そんなことしたら停学とかくらうぞ」

 なんだかんだ言って、別れる間際まで喋っていたりする。まあ半分漫才のようなもんだが。

普段無口な(だと思う)俺をここまで喋らせるとは、やはりそういう才能があるのかもな。……

どういう才能だ(−−;

「そいじゃね、バイバイ♪」

 別れた瞬間に前回のことを思い出しおもむろに周りを見回す。一部の生徒が引いたように

見えたが、荒井田がいなければ問題はない。ほっと胸をなでおろし自分の教室へと向かった。


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