お返し


 ある雨の日(ほとんど毎日雨だが)の英語の授業中、外国人の先生が喋っているのが全然わから

ないので飽きてきて、ふと瞳由ちゃんの方を見た。月1の席替えで彼女の席は俺の席の前方に

なっている。彼女は英語がわかるのか、真面目に聞き入っているようだ。そういえばこの前

夕飯のおかずくれたお返し、まだしてなかったな……そろそろ作った方がいいかな。しかし何を

……卵料理なら(誰でも?)得意なのだが。よし、オムライスでもやるか、前に1度だけ妹と

作ったことがあるが、意外と親父に好評だったことを覚えている。お世辞だったかもしれんが。

一応手作りとわかる料理だから丁度いいかも。

 考えがまとまった所で、ようやく英語の授業が終わった。作ることを彼女に教えなければ、

既に夕飯食べた、という状況になりかねん。俺は彼女の席に向かった。

「瞳由ちゃん、前のお返しで今日夕飯のおかず作ろうと思うんだけど」

「えっ……ホントに作ってくれるんだ」

 突然切り出したからか、一瞬何のことか出てこなかったようだ。

「もしかして、あの時言ったのでまかせと思ってた?」

「ううん、そんなこと無いよ! そんな風に聞こえた?」

「あ、いや疑ってゴメン……期待してよな」

「うん、おやつも食べないで待ってるよ♪」

 

 そういや最近おやつなど食べたことないなぁ。3時頃ってまだ学校だし、それからだと夕飯に

差し支えるし。まあ面倒な時にたまにポテチで済したりするけど、やっぱ足りんし。女の子の方が

おやつ好き、というのは本当かどうかは知らんが、彼女は太ってないから大丈夫だろう。

 本音では今日もゲーセン行きたかったがついつい時間を忘れて居座りそうになるのでやめた。

久しぶりに料理本を見ながら時間を待つ。料理の腕が落ちてないか心配だ。最近は簡単な料理

ばっかしか作ってなかったからな、そんなのは人に食べさせるもんじゃなかったし。久しぶりの

家庭らしい料理、失敗しなきゃいいんだけど。

 ……そろそろいいかな、ご飯も炊けてるし。ここでエプロンなんかあったら本当につけそう

だが、男の一人暮らしであったらさすがに変だ。まあ男も料理できなきゃならん時代なんだけど。

ともかく、冷蔵庫から卵を取り出した。

 

 なんとか完成、か。ちょっと卵の皮がうまくできなかったような気もするが……そういや

ケチャップがなかったな、俺はタレとかつけない主義だからな。醤油はよく使うけど。

コンビニで売ってたっけ、どちらにしろ買いに行く間に冷えそうだ。彼女の家にあるだろ、多分。

さっそく持っていくことにした。ラップも忘れずに。

 呼び鈴を鳴らす。これって隣のがなってもあまり聞こえないよな。意外と響かんものなのか?

「はーい……あ、テツ君」

 返事がして少しの後、扉が開く。期待してるのがよくわかる顔の瞳由ちゃんが顔を出した。

「おまたせ、ジャーン! 俺の手作りオムライス!」

 ジャーンなんて普通言わないよな、でも言わずにいられないほど俺も浮かれていた。女の子に

料理を作ってあげるなんて初めてだったからな。世間的にも珍しいかもしれないが。

「あ……ありがと……」

 が、料理を見た彼女は一転、ちょっとがっかりしたような表情を見せた。期待してたのより

ショボイ料理だったが?見た目はそんなに悪くないと思うのだが……

「もしかして、オムライス嫌いだったり……?」

「えっ、や、そんなことないよ、美味しそうだし……でも」

 彼女はためらったあと、俺に驚愕の事実を伝えた。

 

「昨日の晩御飯、オムライスだったの……」

 

 ……ガビーン……俺はしばらく言葉が出なかった。まさかこんなことになるとは予想も

つかなかった。彼女の作った方が美味しいだろう。そのあと食べる俺のなんて劣るだろうな……

「あっ、でもテツ君の手料理だもの、美味しく食べられるよっ」

 フォローは入れてくれたが、やっぱ先に料理教えておくべきだったかな……でも男が料理

できるのが彼女のタイプらしいから(?)俺も本望だよ……でも鬱だ……

瞳由

 

 次の日。彼女は皿を返しに来た。

「味付けが変わってて、私のと違っててよかったよ!」

 調味料はあるもので使いまわしたから普通のと違ってたのかもしれないが、それが幸を

奏したかも。とりあえず胸をなでおろした。だけどできればこういうのは2度とやりたく

なくなったな、怖いから(^^; でも彼女が俺の立場だったとしても、昨日とかぶってるなんて

俺は絶対に言わないだろう。正直に言ってくれるだけありがたい、のか?


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