放課後


「テツ〜〜〜〜」

 せっかくの瞳由ちゃんとの互いの自己紹介を妨げたのは、俺の名前を呼ぶ情けない声だった。

扉の方を振り返ると、すでに佑馬ががっくりしながらも俺を確認すると近づいてきた。

佑馬 & 瞳由

「……七希菜ちゃんとクラスが別れたか」

「……やっぱわかる?」

「わからいでか」

 たとえ同じ文系でも(七希菜ちゃんはともかく、佑馬も文系なのだ!ちなみに俺は理系)

4クラスもある。単純計算すれば1/4の確率でしか同じクラスになれない。というか彼女は

進学クラスだろう。佑馬もこう見えてできる方だが、上位に食い込むわけでもない。

「別に同じクラスでなくても毎日会ってるからいいだろ」

 実はあまりフォローになってないフォローを言ってみる。なんせ1年のときは同クラス

だったからな、それに比べると.59とHELL SCAPER……意味なし。

「そ、だね……」

 なんとか返事する佑馬に対し、

「あなたは……テツ君のお友達?」

 瞳由ちゃんもこの変な奴が気になるようだ。いや「類は友を呼ぶ」、俺も変な奴かもしれんが。

「ああ、中学からのダチで、名倉 佑馬、将棋部だ。」

「……僕に自己紹介させてくれよ」

 俺が仕切ったのでか、ジト目で見る佑馬。その目にはなぜかニヤリとしたものもうかがえるが。

「こちらは、俺が住んでるマンションの部屋の隣に越してきた、列戸 瞳由ちゃん。えーと……」

「部活は入ってません」

「えっ……」

 意外な言葉に驚いた。むしろ俺と同じなのが。だが理由はすぐにわかった。

「今まで家まで遠かったから、部活をやってると帰り道暗くなっちゃうから。でもこれからは

 その心配がないから、何かやろうと思ってるんだけど」

「ほうほうなるほど、それなら仕方がない」

「……なんだよ」

 佑馬が意味ありげにあいづちを打つ。どーせ俺はやる気ねえよ……

「っと、じゃあ僕は部活があるから、お二人さんごゆっくり」

 一番顔をにやつがせながら、教室を出て行く佑馬。なるほどこいつ、これが言いたかったのか。

いわゆる兄弟仁義、あるいはおせっかい。互いに、相手が気のある女性の前では友のために

身を尽くす、とかがあいつのモットーだっけか。大半は自分のためだろう、俺は何度もお膳立て

したような気がするが、今の今まで2人の関係が全然進んでないとすると意味がないような気も。

そして今俺が受身になったのは初めてのような気がする。俺に出会いがなかったからだが。

それにまだ彼女に決まったわけでもなし。そりゃ性格よさそうだけどさ……

「ねえ、部活なにがいいかな」

 相談の相手は、本当に頼りにしている人とか言うが、そんな大袈裟な質問でもなし。

それに俺にそんな質問するのも見当違いのような気もするのだが。それを言うと引かれそうなのが

俺にも予測できるので、何か考えてみる。

「りょ、料理とかどーかな」

 とりあえず、さっき話題に挙がった七希菜ちゃんが行ってる部活を挙げてみた。

「私、料理得意よ、でも部活でするほどでもないし」

 あっさり却下される。俺の立場ももちろん料理部員の立場もないな……

「文学……いや、俺たちは理系だし……将棋……は知らないよね?……んーー」

 知り合いの部活をいろいろ考えてみたが、どれも瞳由ちゃんには似合いそうになかった。

……てことは、瞳由ちゃんは今まで会ったことない娘、ってことか?それは考えすぎか……

「ありがと、あとは自分で考えてみるよ」

 数十分も話し込んで疲れたのか、俺を気遣ったのか(どうせヒマだが)彼女は話を切り上げて

帰る準備を始めた。俺も荷物を持って立ち上がる。

「それまでは帰宅部だな」

 言って、またいらんこと言ってしまったと後悔する。誰だ、こんな無意味な言葉

考えついたのは。そういえば出会ったときもつまらんこと言って、そのときは……

「うん、帰宅部!」

 だが、彼女はまた俺の言葉に同調した。こんなことは初めてだ、なんか俺、突然口が

上手くなったのか?それとも……そうか。彼女が俺と似てるんだ、今まで出会ったことない、

てのは俺自身に一番似てるってことなのか。……それも考えすぎのような気もするが、

少なくとも「無部活」というのが共通項だし(理由はかなり違うぞ)

「一緒に帰ろっ」

 数分だが、信号もこの時に限って青だったが、話すこともないので無言だったが……

やけに長い帰り道だった。同じエレベーターに乗って、同じフロアに着く。

「じゃあまた明日ね」

 明日。明後日。毎日。彼女に会えるのが毎日。これが佑馬の七希菜ちゃんに対する気持ちか。

ぞんざいにして悪かったかもな……


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