なんとなく起きてみた。彼女は――瞳由ちゃんはまだ寝ているだろうか。
……ぁゃιぃ妄想をする前に自分の頬を叩いて目を覚ます。昨日風呂入らずに寝ちゃったから
シャワーでも浴びとくか。
あとは時間どおりだった。飯食って着替えて登校だ。いや、佑馬たちには会わなかったから
ちょっと早いのかもな、交差点で見る生徒の数も少ないし。明日になればもっと見る人数が
増えるだろう。明日は入学式だ。なんで新入生は遅れてくるのか、というと在校生が会場作りを
手伝わせるからだ。もっとも、そのほとんどは3年生がやってくれるのだがな。
教室に着いたが案の定人数は少なし。俺はなぜか(つってもどこかしら理由があるのだろうが)
友達が少ない方だ。よく言えば選んでる、とでもしておこうか。悪友と言うのはいない。
ゲーセン行く時も一人のときが多いし。……遊び友達というのはほとんどいないということか。
そんな数少ない友達の中で、同じく早く来た武市に声をかける。
「よっタケ(あだ名)、同じクラスだな」
「あ、タイト君……そうだね」
……ほんとに変わらんな、人見知りというかなんつーか……でも実は影でコソコソやってそうで
侮れん。部活もパソコン部だし(関係なし)
「今日は役員を決めるんだよね、室長とか」
普通の学校では「委員長」というのが普通だが、この学校ではなぜか「室長」である。
「栄養失調」をホウフツさせるのが気になるのは俺だけであろうか。
「タイト君に入れとこうか」
「やめとけ、面倒くさい」
だいたいお決まりで全員が全員に票を入れて、一番多い人と二番目が室長、副室長だ。
しかも強制というのが納得いかん。立候補する人もいないので仕方ないが。しかしこんな
面倒な仕事が待ち構えている室長(委員長)でも、小学生の頃はなりたがっていたのが不思議だ。
票が入る=人気者ということか。今や押し付けが大半なんだろうな。
あとなんかゲームの話題でダベってると、もう一人の知り合いが来た。
「テツ君おはよう!」
「あ、瞳由ちゃん……」
武市のことはほったらかしで瞳由ちゃんの方へ行く。別に故意でやってるわけではないのだが、
あいつはよくそうされてるので慣れてるのだろう……な? どうせお互い話ベタなんだし
これ以上話すこともなかったし。とりあえず後ろ向きに手を振っておこう。
「おはよう」
改めて彼女にあいさつ。まああいさつなぞほとんどしないというのが本音だが、やっぱ
先生とかと廊下ですれ違うとやっておいたほうがいいかな?と思ってあいさつしたりする。
別に株を上げようとしてるのではない。
「誰が室長いいと思う?」
とりあえずさっき武市と話していた話題をもちかける。やっぱり自分で話題を作ることが
できていない……まあタイムリーだしいいか。
「んー……去年の室長の人がいたら入れるんだけど、他のクラスの室長だった人は知らないし」
「それだったら、綿貫なんてどうかな、去年やってたぞ」
図体のがっしりした綿貫 桂二(わたぬき けいじ)は、去年は武市と同じクラスで室長
だったようだ。ああ見えても実は佑馬と同じ将棋部所属だったりする。せっかくの巨体、
ラグビーなんか最適だと思うが、残念ながらこの学校にラグビー部はない。体育部自体
そんなにないのだ。ほとんど文化系である。
「でもま、自己紹介見た後で決めてもいいかもな」
自分で言って、いやなことを思い出した。自己紹介。これで1年の印象が決まる。ここで
フレンドリーに「オッス、オラ タイト!4649!!」とか言えば友達も増えるだろうが
それが言えれば苦労はない。それに1年のときは地味に自己紹介したので、去年同じクラスの
奴らの目も気になるし。……結局今年も同じになるだろうな。
「あ、一応言っとくけど、私には入れないでね(^人^;」
「ま、まあこちらこそ……」
瞳由ちゃんのお願いに変な対応をしてしまったが、言葉通りなので仕方がない。そうこう
してるうちにチャイムが鳴った。先生が入ってくる。席に座る時に瞳由ちゃんがコソッと言った。
「先生って外国ドラマの主役に似てるよね」
……それか。と同意しようと思ったが、すでに彼女は自分の席に向かっていた。
彼女は出席番号一番最後なので窓側の一番後ろの席だ。まあこの後自己紹介して役員
決めての席替えがあるだろうが。できれば……彼女の近く、つーか隣とかなったらいいな、
と思ってみたり。どうせ一ヶ月でまた席替えなんだろうけど。
「それじゃ、自己紹介してくれるか」
先生が言った。声までは似てないようだ。つーか吹き替えなんだけど。今年はどれだけの
クラスメートと仲良くなれるんだろうな。